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実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために
清水 勝彦(著)
出版社:日経BP社(2012/11/22)
Amazon.co.jp:実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために
責任の所在が曖昧でなく、誰かが責任をとれば、組織は成功するだろうか?
<組織における責任>を考える『戦略と実行』の続編
「責任をとる」ことも大切であるが、それ以上に「責任を持つこと」が大切である。
個人としての責任を組織力につなげる。
本書は、テキサス大学サンアントニオ校(テニュア取得)を経て現在は慶応大学大学院経営管理研究科教授の著者が、「組織における責任」について解いた一冊です。
- ・前著の『戦略と実行』は、戦略の本質を理解した「実行」が業績の決め手であり、戦略の実行で一番大切なものは「コミュニケーション」であることを様々な視点から論考しているのに対し、
- ・本書は前著をさらに掘り下げ、①目的の大切さ、②実行を進めるための価値観共有、③リーダーの本質的な役割、について論考しています。
本書は、以下の3部で構成されています。
- ・第一部「組織における責任」では、組織における責任の意味を明らかにし、トップの責任について
- ・第二部「個人の責任感を組織力に高める」では、組織力とは何かを明らかにし、組織改革、組織におけるトップの仕事、そして組織力の本質について
- ・第三部「『責任を持つ』組織作りをめざして」では、「責任を持つ」組織に向けた3つの基本、そして日本の組織力再生に向けた提言をしています。
企業のトップ及び事業を推進されているリーダーの方々にとって、「責任を持つ」ことの意味、そのためにはコミュニケーションによって目的や価値観の共有し、その上で議論・対立することの重要さについて、組織力を高めるための具体的な対応策を考える際に役立つ一冊です。
組織が存在するのは、個人ではできないことを達成するためです。
もっと言えば、戦略の実行とは、自社を良くする、業績を改善するために行うものであるはずで、社員全員の将来に関わることのはずです。
責任の意味
『広辞苑』(岩波書店)
①人が引き受けてなすべき任務
②政治、道徳、法律などの観点から非難されるべき責(せめ)・科(とが)
「責任をとる」ことの意味
①「失敗」を引き起こしたリーダーあるいは担当者は、その任に適していないため、その間違いを正す目的で任を解く。
②「失敗」を引き起こしたリーダーあるいは担当者をそのままにしておくと、社員あるいは株主から「信賞必罰」でないと不満が出るため、懲罰として任を解く。
「責任」には、「①因果関係を踏まえて失敗の原因を正す」と「②不公平感を抑えるためのけじめ」という二つの意味があるが、現実的には後者②の方がほとんどで、企業は問題を解決したつもりになっている。
その結果、挑戦するよりも、リスクを冒さず保身に走ってしまうことになる。
- ・組織における「責任をとる、とらない」の議論は、前提に「因果関係」というよりも「公平、不公平感」であり、モラルを維持するために果たす役割が大きい。
- ・失敗から学んび、成功するまでやらせる。
失敗したら、そこから学んで、リベンジさせる。
責任と仕事
責任を持つ | 責任を持たない | |
---|---|---|
仕事をする | 当事者 | 片づけ仕事 |
仕事をしない | 権限委譲 | 他人事 |
- ・人は「責任を持つ」ことに対して心理的な抵抗がある。
- ・組織に属す限り、「責任」のない仕事はない。
ないように見えても、結果的には必ず影響される。
- ・組織では、現場がどれだけ「責任を感じるか」が組織力の強さを決める。
トップが責任を果たせない理由
1.トップの失敗の多くは、「成功体験の呪縛」と「事実情報の不足」による。
2.経営者が間違う7つの習慣(ダートマス大学シドニー・フィンケルシュタイン教授)
①自分と会社が環境を支配していると思い込む。
②会社を自分と同一視し、公私混同する。
③全てわかっていると思い込む。
④自分の部下が100%イエスマンでないと我慢できなくなる。
⑤会社のイメージアップにのめり込み、完璧なスポークスマンになろうとする。
⑥ビジネス上の重要な障害を過小評価する。
⑦過去の成功体験にしがみつく。
経営者やリーダーの大切な仕事
1.社員の「自分の力(責任)で仕事を達成したい」という気持ちを「責任を負いたくない」という気持ちより大きくする。
2.そのためには、
①仕事の目的を明確にし、
②どのような会社にしたいのかを社員一人ひとりと共有する。
そして、③達成感を味わわせる。
3.外部の意見には耳を傾けなければならないが、言いなりになる必要はない。
マスコミや株主のプレッシャーが理不尽に強いときは、「インプレッション・マネジメント(印象操作)」も有効なツールとなる。
4.組織のメンバーが目指すべきロールモデルとなる。
「上は下を見るのに3年かかるが、下は上を見るのに3日あればよい」
トップの仕事 = 「誰もがしたくない仕事」 = 「トップしかできない仕事」をすること
1.不確実な状態での決断
- ・判断基準は、目的やビジョンに照らして、ふさわしいかどうかの直感が基準になる。
- ・外だけではなく、普段から自分の組織のことを知り、組織の目的やビジョンを明確にし、自分の胸に手を当ててその直感を信じる勇気を持つ。
2.トレードオフを伴った決断
- ・不公平とトレードオフ:限られた資源を均等配分するのではなく、本来集中すべき事業や課題に使う。
「強み」をはっきりさせ、それを生かす作戦を立てる。
- ・時間的なトレードオフ:今コストをかけることで、将来のコストを減らす。
- ・トレードオフを避け、「痛みを共有する」ことで逃げようとするトップは、組織のメンバーが力を発揮する機会と意欲を削いで、弱い組織を作る。
リーダーとマネージャーの違い
リーダー | マネージャー | |
---|---|---|
責任 | ゴール設定 アイデンティティ |
問題解決 |
評価基準 | 中長期的差別化 | 短期的効率 |
答えるべき質問 | What | How |
使うツール | 直感、好き嫌い | ロジック、分析 |
考え方 | 統合 | 分解 |
リスクへの姿勢 | リスクをとる | リスクの最小化 |
- ・リーダーが組織の方向をきめ、マネージャーは決められた方向に組織を導く。
- ・リーダーがゴールや目標を決め、マネージャーは「どのように達成するか」を考え、実行に移す。
- ・リーダーは組織及び組織の構成員を「夢で動かす」、マネージャーは組織や制度及び権限といった「仕組みで動かす」
組織力 = 目的 役割 結びつけ、統合
1.組織力を高める仕組み
①目的の明確な共有
②フォーマルな仕組み:ルールや報酬
③インフォーマルな活動:理念、価値観の共有化
2.組織のルール
①ルールとは、組織のノウハウの結晶であるが限界がある。
②ルールの進化が、組織力の進化につながる。
「最後はヒトだ」では、組織力はつかない。
組織力を高める改革
1.組織には「慣性」があり、行動パターンに限らず、ものの見方も固定化しがち。
2.組織改革に必要なアプローチは、自社の原点から見て、現在の姿をより高めていく「進化」にある。
3.仮説としてより高めていく、進化させていくという姿勢は、組織能力を高めることになる。
4.ウサギの心と耳を持ち続ける組織 = 慢心しない組織
①高い目標を共有し、成功体験のワナや過信を防ぐために様々な意見に触れる。
②社内では言いたいことを言える雰囲気作り、客観的に意見を言ってくれるメンターを作る。
③現場の意見が、いち早くトップに伝わる仕組みを作る。
④トップは心の中はウサギであるが、部下の前ではライオンである。
組織力を高めるコミュニケーション
1.価値観、目的について、十分議論し納得してもらい、共有する。
2.「思い込み」を捨て、人の話をよく聞く。
自分の前提の限界と、他人の前提の良さを知ろうとする姿勢。関心が大切。
3.「わざわざ」言うことを大切にして、それを絶対に守る。実行する。
4.対立は避けるのではなく創造的に活かす。
本当の意味で信頼の文化を育み、隠されがちな情報を組織的に共有する。
「責任を持つ」組織に向けた基本
1.「よい目標」を作る
- ・社員が自分の目標として具体的にイメージでき、やってやろうと奮い立つもの。
現場の社員が「わくわくする」もの。
- ・自分の行動の判断基準になる。
2.事実を共有する
- ・事実は目の前にあるものだけではなく、一つとも限らない。
思い込みを捨て、様々な視点から事実を確認する。
- ・組織の中の事実を見逃さない。
①他部門に関わる事実を共有する。
②「対立するという事実」を共有する。
③失敗とそのプロセスの「事実」を共有する。
3.会社を私物化する
- ・責任を持つ組織とは、ある意味では組織を「自分のもの」として考えることである。
組織を「自分のもの=私物化」した社員によって構成される組織と言える。
- ・負のロジック
私心がない = 他の人のためにやっている = だからうまく行かなくても私の責任ではない
日本(企業)を背負っていく優れたリーダーの排出のために、
(1)リスクをとる(とらせる)ガバナンスを再構築する
(2)エリート教育をする
(3)失敗を経験させる
ということになります。(略)
自分に何ができるだろうかと自ら「責任を持って」考え、できるところから実行に移すことではないかと思います。
日本の企業は、「意思決定が遅い」「リスクをとらない」「プロの経営者が絶対的に不足している」などと一般的に言われています。
それは、ある目標をいかに効率よく達成するかに終始していた過去の成功体験からくるもので、業界あるいは世界のリーダーとなった現在においては、市場を創造し牽引していくことが必要となってきています。
先日当サイトでも整理した電機業界においても、過去の成功体験の呪縛から抜け出そうと現在変革している最中かもしれません。
「責任をとる」ではなく「責任を持って」リスクに挑戦し、失敗してもそこから学び新たにチャレンジする精神を個人個人が持ち、その積み重ねが組織力となる。
そして、組織力を高めるためのコミュニケーション、チャレンジを促進する文化を醸成するとともに、社員のロールモデルとなるリーダーを育成する「責任」があることを痛感した一冊でした。
Control your own destiny,or someone will.
自分で自分の運命を決めようとしなければ、誰かに翻弄されるだけ
GE:リーダーシップ = 権限 + 影響力
参考
著者の書籍紹介(当サイト)
2011.4.26 戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何か
経営学視点での書籍(当サイト)
2012.12.10 世界の経営学者はいま何を考えているのか/入山 章栄(著)
実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために
清水 勝彦(著)
出版社:日経BP社(2012/11/22)
Amazon.co.jp:実行と責任 日本と日本企業が立ち直るために
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