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ボトムアップ・マーケティング戦略
ジャック・トラウト(著)、アル・ライズ(著)、丸山 謙治 (翻訳)
出版社: 日本能率協会マネジメントセンター
斬新な切り口の戦術から戦略を構築する。
世界的なマーケターが事例を元に成功の秘訣を説く。
現場に出向き、現実を見据えることから優れた戦術と戦略へのインスピレーションが生まれる。
それが「ボトムアップ・マーケティング」だ!
本著は、マーケティング界において世界的に著名なジャック・トラウト氏とアル・ライズ氏の二人が、一作目の『ポジショニング』と二作目の『マーケティング戦争』を融合させ、その原理やコンセプトの使用についてのプロセスを示した実用書です。
今回日本語に翻訳されるまでには長い年月が経っており、本文に出てくるのは米国企業の事例であり古い感じがします。
しかし著者の承諾の上、訳者の丸山謙治氏が15の日本企業の事例を追加されており、「より身近に」そして「時代を感じさせない」くらい、内容を理解することができます。
戦略ありきでトップダウン的なアプローチ傾向が多い中、戦術を練り上げて戦略を立てるというボトムアップ的なアプローチプロセスは、納得感がありました。
ボトムアップアプローチは、本来日本企業が得意とするものと思っていたところに、米国の著者がその重要性を説いているのには意外でした。
「すり合わせ」による日本流経営の優れているところは認めながら、その経営スタイルの課題も指摘しており、本著の言及したいところが明確に理解できました。
ボトムアップ・マーケティング
原理:具体的なものから一般的なものへ、短期的なものから長期的なものへ。
重視:組織内での変化(トップダウン・マーケティングは環境変化を重要視)
本質:現場に出向き、競合に対し優位性と知覚される斬新な切り口を見つけ出し、それから本社に戻ってその切り口を利用するために必要な修正を加える。
⇒ 現場に出向く = 顧客が考えていることを探れるポジション
「誰」を問題にするのではなく、「何」が重視される。
= 最初に決めなければならないのは、「何の」戦術を使うかである。
戦術とは、
- ・アイデアである。戦術を探すのは、アイデアを探すのと同じである。
- ・顧客の心の中で、競合に対して優位性と知覚される斬新な切り口である。
- ・マーケティング活動の全領域において、競争優位でなければいけない。
戦略とは、
- ・ゴールではなく、その過程が重要視されるべきだ。
- ・選ばれた戦術に焦点がるという意味で、首尾一貫していなければいけない。
首尾一貫したマーケティング活動を内に含んでいなければいけない。
- ・目的は、仕掛けた戦術に競合が反撃してくるの妨げることである。
- ・戦術は結果をもたらす切り口であり、戦略は最大限の戦術的圧力を生み出す会社の組織である。
- ・戦術によって戦略が決定し、その後に戦略が戦術を動かす。
- ・戦術を戦略に転換するためには、時間という要素を付け足さなければならない。
- ・戦術を組織構造の中に組み入れ、企業の重要な戦略コンセプトあるいは企業の使命とする方法を見つけ出すことである。
- ・戦術を戦略に組み入れることは、変更を加えることを意味する。
市場は変えることはできない。見込み客の心を変えることは不可能である。
- ・マーケティング競争に勝つには、戦術レベルの戦いに勝たなければならない。
見込み客の心の中での戦いに勝たなければならない。
戦術 vs 戦略
[戦術] | [戦略] |
---|---|
アイデアあるいは切り口である | 多くの要素を含んでおり、 全ては戦術に焦点が合っている |
時間に関係なく、不変である | ある期間をかけて展開される |
競争優位のことである | 競争優位性を維持する働きをする |
製品、サービス、会社の範囲外にある | 内部的である |
コミュニケーション志向である | 製品、サービル、会社志向である |
トップダウン vs ボトムアップ(マネージャーの活動)
[トップダウン] | [ボトムアップ] |
---|---|
物事を強引に動かす | 利用できる物事を見つけようとする |
既存の市場を追いかける | 新たな機会を探す |
市場を変えようとする | 顧客の心を理解し、自社内を変える |
内向き志向である | 外向き志向である |
長期の成功と短期の損失を信条とする | 短期と長期の両方の成功を信条とする |
計画はボトムアップ型、実行はトップダウン型
= 計画を実行する用意ができたら、正確かつ注意深くタイミングを図ってトップダウン型で開始する。
日本流のボトムアップスタイル
組織の下から上へ意見をすり合わせていく。
⇒ 徐々に増えるステップでは、「前線」を素早く、新しい方向に動かせない。
梯子全ての段ですり合わせが行われ、素晴らしいアイデアは勝算がなくなる。
「誰が」実践するかに重きが置かれ、「何が」なされるかは問題にされない。
自社で満場一致のコンセプトは、どれも他社と大差がなくなる。 = 画一化
個人の成功よりも、組織の成功に全力を注ぐ
⇒ 個人重視の傾向が強いアメリカでも、個人の利害関係を和らげる方法はある。
将来を「予測する」ことと「創り出す」こととは違う
将来の予測とは、これから起きる消費者行動の変化に頼っていることである。
将来を創造するとは、製品やサービスを市場に導入し、それがまさに成功して時流を「創る」ことである。
そして、最後の記述が印象的でした。
大成功するためには、優れたアイデアが必要であり、適した時期に適した場所にいなければならない。
マーケティングは正々堂々と徹底的に戦うことであり、そのためには(精神的な)根底から出発しなければならない。
顧客の心の中という戦場で、競争優位を生む一つの戦術を生み出さなければならない。
その一つの戦術を核として首尾一貫した戦略を練り上げるために、進んで全力を注がなければならない。
外部の機会をモノにするには、組織内を積極的に変えなければならない。
マーケティングといえば、往々にして本社の机上できれいに策定することを思い浮かべ、近年の日本企業も欧米の戦略論を取り入れたトップダウン型アプローチが多いように感じます。
本来の現場志向の文化がある日本企業でも、組織が肥大化してトップになかなか伝わらない傾向もあるようです。
本著を読んで、改めて考えさせられました。
参考
・ポジショニング戦略[新版],海と月社,2008年4月14日
『ポジショニング』はコミュニケーションのテキストとして、コミュニケーション
とはビジネス戦術の部分であるとしています。
・マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術,翔泳社,2007年4月20日
『マーケティング戦争』はマーケティングのテキストとして、マーケティングを
ビジネス戦略の部分であるとしています。
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