このページ内の目次
激震経済
読売新聞経済部(著)
出版社:中央公論新社
日本経済の行方をを占い、「強い経済」を実現するためには、世界経済の潮流を見定める必要がある。
我々は今どこにいるのか、危機をチャンスに変えるために何が必要なのか。
本書は、2008年9月の「リーマン・ショック」以降、読売新聞に掲載された経済記事をもとに、世界経済の転換期を振り返り、日本経済を再生するための提言をしています。
特に、トヨタ・ショック、JAL破綻、リーマン・ショック、GM破綻について、それぞれの軌跡や舞台裏などを理解するのに参考になります。
また巻末には、ポール・サミエルソン氏(当時マサチューセッツ工科大名誉教授)とポール・クルーグマン氏(当時ブリストン大教授)の両氏が金融危機について、ゲーリー・ベッカー氏(当時シカゴ大教授)がGM破綻について、当時のインタビューが掲載されており、3氏の考察も参考になります。
100年に一度といわれた金融危機が起き、やっとその出口が見え隠れしてきましが、日本経済にとっては依然として多くの課題を抱えています。
数年後、歴史の教科書に載るかもしれない出来事の真っ只中にいる現在、その転換期を振り返り、その過程で浮き彫りになった原因を分析し、課題を明らかにし、対応する必要があると思います。
端緒となったサブプライムローン問題などでは、金融工学を駆使して利益を追い求める米国型金融資本主義、行き過ぎた市場主義の欠陥が明らかになりました。
そして、危機後の景気回復を主導しているのが中国を代表とする新興国の成長ですが、中国国内では賃上げを求める労働者のストライキが起こり、進出メーカの生産に影響が出始めています。
また、ギリシャ財政危機に始まったユーロ安は、欧州各国に財政状況の改善姿勢を強めさせている一方、他国の犠牲の上に自国を立て直そうという「保護主義」志向の国もあります。
6月18日閣議決定された「新成長戦略」の概要は以下の通りですが、それに先立つ5月7日に読売新聞社は緊急経済提言を発表しています。
1.目標
- ・2020年までに計123兆円の新規市場と約500万人の雇用を創出
- ・2020年度までの名目のGDP成長率を平均3%超、実質成長率を2%に引き上げる。
- ・これにより、2009年度約470兆円の名目GDPを2020年度には650兆円にする。
2.成長分野
①グリーン・イノベーション
②ライフ・イノベーション
③アジア
④観光・地域開発
⑤科学・技術・情報通信
⑥雇用・人材、⑦金融
3.企業の競争力強化策
現在約40%の法人税率を段階的に「主要国並みに引き下げる」(25%想定)
読売新聞社の緊急経済提言
1.マニフェスト不況を断ち切れ -政策ミスで日本を破滅させるな-
2.コンクリートも人も大事だ -デフレ脱却に公共投資は必要だ-
3.雇用こそ安心の原点 -福祉は産業活性化に役立つ-
4.内需と外需の二兎を追え -官民で海外需要を取り込め-
5.技術で国際競争を勝ち抜け -先端分野に集中投資しよう-
新成長戦略の目標の高さは、日本の近年の状況からは実現は難しいと思います。
読売新聞社の緊急経済提言も全てが納得できるものではありませんが、政策だけに頼るだけでなく全員が日本再生に向けて努力していく必要があると思います。
関連記事
前へ
書籍 大前研一の新しい資本主義の論点
次へ
地域中小ITベンダーの危機感と熱意、「IT業界の構造転換」を脅威よりも機会と捉える