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民の見えざる手
- デフレ不況時代の新・国富論 -
大前 研一(著)
出版社:㈱小学館
「縮み志向」ニッポンを動かすヒントが満載!
急増する単身世帯や新興国需要、そして真の埋蔵金
増税せずとも経済は活性化できる!
マクロ経済学から出発した経済政策には、金利の上下とマネーサプライの増減しか打ち手がない。
しかし、「ボーダレス経済」と「サイバー経済」の潮流の中、需要が不足している日本の状況では、この対処療法的にデフレを処理しようとしても根本的解決にはならない。
国民が持っているお金をいかに引き出すか(「その気」にさせるか)というほうが明らかに経済効果は大きい。
そのための方策を考えるのが、消費者をその気にさせる経済学(行動経済学)である。
2007年11月に出版された「心理経済学」が、日本経済をとりまく情勢分析中心だったのに対し、本書では消費者の心理をさらに実践的に解説しています。
今の経済を動かしている「民の見えざる手」の正体、これからの世界がどこへ向かおうとしているのかを、多くの事例をもとに著者独特の視点で分析し、
- ・マクロ経済においても、結局はマーケティングが大事だということ。
- ・消費者心理を知らずに見せかけだけの政策を実施しても、効果は上がらない。
などを指摘しており、経営者やマーケティング担当者はもちろんですが、政策担当者にも大いに参考になる一冊だと思います。
神の見えざる手:アダム・スミス
市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体の利益が達成される。
個人が利益を追求することは、社会に対しては何の利益ももたらされないように見えるが、価格メカニズムが働き、適切な配分がなされる。
需要と供給のバランスは、「神の見えざる手」によって自然に調節される。
官の見える手
税金を使って産業を興したり、公共事業で見かけの経済成長率を上げようとする。
民の見えざる手
「合理的な判断」といっても、個々の「民」に「神」の視座は与えられていない。
どこまで行っても最後は感覚的な部分が残ってしまう。
現状認識:「縮み志向」ニッポンと「心理経済学」
台湾、韓国、中国の経営者達と比較して、最近の日本の大企業の経営者は、みんな「縮み志向」になっている。
世界に打って出るという気概もなく、どこもコストダウン一辺倒である。
すでに日本は、「経済成長、税収増、需要拡大、昇進・昇給」が当たり前の時代は終わり、完全に「成熟国モデル」へと移行している。
途上国では、「生活の基本資材はすべて欲しい」という前提条件に立つが、成熟モデルにおける基本戦略は、人々が「潜在的に欲しいと思っているもの」を見抜いて提供しなければならない。
2009年4月の追加経済対策「エコカー補助金」、そして「エコカー補助金」
中途半端な政策では、消費者の「その気」を削がれてしまったのに対し、独メルケル首相の新車買い替え金「スクラップ奨励金」は先見性があった。
一人ひとりの消費シーンでも、「中間」がなくなり、「高級」と「激安」の二極化が進んでいる。
目前にある鉱脈:拡大する「単身世帯」需要を狙え
高級ブランド市場は、1996年の1兆8,971億円から半減している。
これは、かつては途上国レベルだった日本の消費者が、今や欧米の消費者並に「成熟」し、本当に好きなものを選ぶようになってきた証である。
「自分たちの顧客とは誰なのか?」「彼らは何を求めているのか?」という原点に立ち戻るべきである。
単身世帯は、2010年度中には1,500万世帯を超えて全体の3割以上
- ・夫婦のみの世帯は、約1,000万世帯で全体の2割強を占めると推測される。
- ・これらの世帯の多くは、「安いだけの商品」は志向していないにも関わらず、総合スーパーは具体的な対策を講じていない。
「安ければよい」という姿勢は、結局「顧客の顔を見ない商売」に繋がる。
「安価」ゆえに「容易」な商品を生む弊害を抱えている。
今の日本は、企業が競って低コスト・低価格の「機能型」に市場を追い込んでいるので、デフレが加速して経済が萎んでいる状態。
その行き着く先は中国や台湾の得意分野であり、日本企業が生きていく場所は残っていない。
「価値型」の割合が大きくならないと、日本経済は膨らまない。
航空券や家電製品など、どこで買っても同じものである「左脳型商品」の販売を得意とするがネット通販であった。
しかし、アパレルや食品のような試着したり、試食したりして確かめる「右脳型商品」も、ネット通販で拡大しつつある。
例えば、セレクトショップのZOZOTOWNは、大化けする可能性あり。
「主戦場」はリアルからネットへ移行していく一方、人は選択肢が増えると選択しなくなる。
さらに、クレジット番号などの個人情報を預けるのは、信用できる店や気に入った店に限定する傾向があり、ポイントと電子マネーを統合したネット企業が「デジタル戦国時代」を制する。
外なる鉱脈:「新興国&途上国」市場に打って出る
今や新興国が、世界経済の成長を牽引する役割を担っている。
理由1:より高いリターンを求めて世界を徘徊している巨額マネーが、グローバル金融システムによって新興国に向かう仕掛けができている。
理由2:21世紀の新しい「雁行モデル」が誕生した。
中国を先頭に、BRICsやVISTAが一斉に追いかけ始めた。
中国、インド、トルコ、ルーマニアなど、世界に知的労働者を提供してる国は、祖国が発展すると海外に出て行っていた人材が帰ってきて、さらに発展する。
またデジタル時代の現在においては、先進国に追いつくのも容易になっている。
日本企業は、新興国市場の中間所得層を獲得していかなければならない。
中国経済は、第2ステージに突入している。
労働力の安い生産基地として、輸出により成長した「第1ステージ」から、内需主導の「第2ステージ」に転換してきている。
外国企業は中国国内の市場に本格的に入っていかなければならないが、ブランドやマーケティング、販売、サービスといったスキルセットを中国で確立しようとすれば、20年はかかることを覚悟すべきである。
日本企業は、これから経営資源の50%は注ぎ込んでも足りないくらい。
インドネシアは、中国よりも労働賃金が安く、コスト競争力が復活したことで輸出基地としての「第1ステージ」を享受しながら、経済が安定成長に入り内需主導の「第2ステージ」に突入している。
ロシアの経済協力も「Win・Win」の関係となり、全く新しい「ビジネス新大陸」が浮かび上がる。
ウラン濃縮、原発再建、再処理のビジネスに加え、遅れているロシア重軽工業の再建支援ビジネスも可能性がある。
ウクライナも旧ソ連時代からの重工業地帯で、IT産業レベルの高さも魅力的。
さらに、良質な土壌と豊富な水があり、農業ビジネスも可能性がある。
2007年1月にEUに加盟したルーマニアも、人件費が安く労働力も豊富である。
規制緩和が生む鉱脈:新の埋蔵金=潜在市場はここにある
日本を変えるためには、「戦略的自由度」という手法が有効である。
戦略的自由度とは、現実的に見て戦略を立案すべき方向のことで、まず「目的は何か?」と質問し、目的を実現するための方法を調べ、打ち手(自由度)を見つける。
その中で、一番コスト効率がよく、顧客に一番インパクトある方法を選ぶ。
増税せず、税金も使わず、日本の民間のお金だけで経済を立て直すこともできる。
- ・源泉1:大都市周辺の市街化調整区域を計画的に開発する。
- ・源泉2:首都圏の湾岸地域を再開発する。
- ・源泉3:地域全体の建物の容積率を緩和し、高層建築を可能にする。
20世紀後のグランドデザイン:「人材力」「地方分権」で国が変わる
気がつけば、多くの分野で「日韓逆転」が起きている。
その理由は、韓国人が欧米人と渡り合えるレベルの英語力を見につけ、リーダーシップのある学生が増えたためである。
韓国は、国を挙げてグローバル化とIT化を進めた。
21世紀のビジネスパーソンに求められる「三種の神器」は「英語」、「IT」、「ファイナンス(財務)」である。
北欧型ロハス教育で大切にしていることは、「家族」、「コミュニティ」、「地球環境」である。
基本政策の改善案
①「基礎自治体」をつくり、そこに財源や権限を委譲する。
②成人年齢を18歳に引き下げる。
③個人識別ID制にして国民データーベースを構築する。
④発展する新興国の国つくりに、正面から取組む人材と組織体を構築する。
アウトドアとインドア、そして海外という3つのカテゴリーで、
自分でできること、仲間を募ってできることなどを織り交ぜながら、自分が楽しいと思う趣味を持つべきである。
そのためには、まず自分なりの「目標」を少し高めに設定し、それを一つひとつ達成していくことが重要である。
参考:大前流心理経済学 貯めるな使え![2007年11月 講談社]
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