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GILT(ギルト) ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー
アレクシス・メイバンク、アレクサンドラ・ウィルキス・ウィルソン(著)、孫 泰蔵(その他)、実川 元子(翻訳)
出版社:日経BP社 (2013/4/18)
Amazon.co.jp:GILT(ギルト)ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー
最高の仲間がいれば、リスクなんて怖くない!
保守的な超一流ブランドを次々と口説き、3年半でオンラインセール「ギルト」を10億ドル企業に育てた挑戦の日々。
本書は、オンラインマーケット「イーベイ」の創設メンバーの一人アレクシス・メイバンク氏とブルガリやルイヴィトンで実績を積んだアレキサンドラ・ウィルキス・ウィルソン氏の女性二人が、「ギルト(GILT)・グループ」のスタートアップ成功の秘訣を自らの体験に基づいて明らかにした一冊です。
この「ギルト(GILT)・グループ」は、有名ブランドを数日限定、半額以下で提供するオンラインセールのサービス。
2007年11月に超高級女性ファッションからスタートし、今やユーザー500万人、スタッフ900名、週22回以上のセールを開催し、取扱品目も自動車や別荘まで拡大した企業価値10億ドルの企業です。
本書には、サービス開発、取引先との交渉、資金調達、クチコミ・マーケティングといった、事業を創業し拡大していく中で実際に取り組んできたことを紹介しながら、章の終わりに「チェックリスト」としてポイントが整理されています。
- ・著者たちの経歴、ハーバード・ビジネス・スクールでの出会い、どのように創業に至ったか。
- ・事業を立ち上げ、どのように意思決定し、試行錯誤を繰り返し、様々な課題をどのように解決していったか。
- ・急成長の中、経営、財務・経理、技術インフラへの対応、そして築き上げてきた企業文化をどのように維持していったか。
スタートアップを成功させてきた著者たちの実話がスタートアップの段階に沿って記述されていますので、ボリュームある書籍ですが思わずのめり込んで読んでしまいます。
スタートアップ、企業内で事業を立ち上げ推進されているリーダーの方々にとって、バイブルとしてお薦めの一冊です。
共同創業者たちが事業を始める前からしっかりとした人間関係を築いていたこと ― 加えて顧客、仕入先と従業員とも同様の信頼関係を築けた ― がギルト・グループの事業を成功に導き、関わっている人たち全員に達成感を与えたのは間違いない。
中略
こういう人間関係のおかげで、私たちは実行力を得た。すばやく確実にアイデアを実行する点で私たちが競合を上回ることができたのは、確かな人間関係があったからだと信じている。
近年、アイデアは安く、簡単に真似されてしまう。決め手となるのはアイデアを形にする実行力だ。私たちを成功へと導いたのは、こんな実行力だ。
著者たちは、成功の要因は「人間関係と実行力」と言っています。
- ・創業するとき、一人ではなく誰か一緒に実行する人がいれば力は増すが、パートナーとの関係がうまくいかなければビジネスは破綻する。
- ・パートナーとの相性がよければ、成功はより大きなものになる。
- ・起業家の資質の中で大きな部分を占めているのが、アイデアを実行に移すべきか否かの時期を見極められる能力。
- ・すばらしいアイデアをひらめいたとしても、チャンスがめぐってきたとしても、タイミングが合わなければ事業を進めるべきではない。
「ギルト・グループ」の主な成功は、「優秀な人材のいる起業チームと人間関係」、そして「熱意とスピードある実行力」以外にも、「市場の動きを的確にとらえた」ことにあると考えます。
そこで、本書から見えてきた主な成功要因をまとめておきます。
超高級分野からスタートし、手ごろな価格帯に拡大
- ・サイトは神秘的な輝きを放ち、高級感が生まれる。
高級品を安価で買えるからサイトに参加する。しかし、誰でも参加できるサイトではないからこそ参加したくなる。
- ・高額商品にすれば販売利益はより高くなり、資金繰りが問題になりがちな創業直後数カ月の収入をより大きくできる。
ブランド
- ・小売店や従業員たちと倫理に基づいた長期的な関係を重視する。
- ・最高級商品の売り手は、インターネット上で大っぴらに割引販売することをいやがるが、ギルトであればブランドイメージをコントロールしながら、高級品市場のすそ野を広げられる。
- ・ギルトの顧客は、ファッション感度が高く、教育があり、可処分所得は高いけれども買い物をする時間がない若者である。
最高級商品の売り手は、購買層を広げるチャンスである。
ショッピングという娯楽体験の場を提供
- ・ネット上に毎日同じ時間に、商品をほかの客と競って買う楽しみを提供する。
- ・ブランド商品を、姿が見えない他の客を出し抜いて手に入れたときの勝利の喜びは、ギャンブルにも似た快感となる。
- ・ショッピングを一種の「ゲーム」にし、ゲームに勝つためには戦術と技術を磨かねばならない、という設定にする。
クチコミ、バイナル・マーケティング
- ・自分が選ばれた人であるという気分になると、友人を誘おうという気になる。
これがクチコミをより速く、効果的に広げる効果を生む。
- ・自分たち自身がギルトがターゲットとする顧客層であったため、顧客の取り込みに経費も労力もあまりかけないで済んだ。
- ・次々と話題を提供し、セールを途切れることなく展開し、顧客の興奮がさめる間を与えない。
- ・常に新しくより新鮮味のある情報を、流行発信人やブロガーに提供し続ける。
顧客個人とメールを絶やさない。個人対個人の対話を重視する。
優秀な人材の募集
- ・闘志と熱い情熱を秘め、人生の喜びをたくさん知っている人。
- ・面接にチームのメンバーをできる限り多く立ち会わせる。
- ・エンジニアがいる場所に行き、優秀なエンジニアを探す。
「この人のために仕事をしたい」と思うようなリーダーシップとカリスマ性を備えたトップがいることが重要となる。
- ・自分たちと似た人を採用するのはリスクがある。
必要とする人材像を分析し、その条件に当てはまる人を探してチームとして機能させる。
- ・従業員全員に、自分も会社のオーナーだという気にさせる。
資金調達はアート
- ・ベンチャーキャピタルは、アイデアに投資するのではなく、人(チーム)に投資する。
重視する人物は、秀でた才能に恵まれ、創造力があり、野心家であるかどうか。
- ・早期に資金調達して組織の体力をつけることで、避けられない市場の変動に備えることができる。
- ・好意を持って受け入れられるように、事前に準備をしておく。
ベンチャーキャピタルに個別に打診しておく。
エリア展開
- ・どの都市においても、イベントを主催するときには、エキサイティング、トレンディ、高級、というギルトのブランド色に、地元の色を添えるように心がける。
- ・それぞれの都市の生態系の中に、ギルトに関するニュースのネタをまき、増殖させる。
その地で影響力のある流行発信人や情報通を育てる。
インフラ
倉庫
- ・即日配送を実現できる技術力と融通性のある企業と組む。
- ・自分たちと仕事をする熱意、倉庫従業員の待遇も確認する。
最先端のテクノロジー
- ・殺到するアクセスに耐える、堅固で信頼性の高いサイトを構築する。
- ・スマートフォンやタブレットを利用するモバイル・コマースへも対応する。
サイト
- ・おしゃれな親友が気軽に相談にのり、社員割引価格で商品を提供するようなサイト作り。
- ・簡単につづれて、簡単に覚えられて、友達にはなすときも間違えずに口にできるサイト名にする。
URLにもなるので、ブラウザやサーチエンジンやメールにすぐに打ち込めるような名前にする。
- ・注意を引く大きな、クオリティ高い写真、トータルな着こなしで表示する。
テキストで伝える内容は、寸法、色、サイズという購入を決める後押しをする具体的な情報に限定する。
- ・精算までの買い物客の操作を簡単(2回)にする。
最悪を想定して、代わりの手を打てるように準備
- ・応援してくれる、適切なアドバイスをしてくれる人脈づくり
また本書には、著者たちが事業を構想し、開始し、拡大していく中で、自問した事項が「チェックリスト」として整理されています。
各「チェックリスト」は5~6項目にまとめられていますので、自らの事業を振り返って確認することに役立ちます。
チェックリスト
1.そのリスクは、よいリスクか?
2.ビジネスパートナーを決めるときに覚えておいてほしいこと
3.あなたのアイデアは、時代の要求に合ったものだろうか?
4.人脈を広げてネットワークを維持する法則
5.ベンチャーキャピタルで成功するプレゼン
6.あなたの事業はバイラル・メーケティングの伝播力があるか?
7.トップクラスのエンジニアを採用し、採用者に満足して働いてもらうためのノウハウ
8.アレクシスのリーダーシップ・スタイル、大局的に物事を見る
9.アレクサンドラのリーダーシップ・スタイル、気配りのひとになる
10.スーザン・リンからのトップに立つ人へのアドバイス
(アレクシスに続く2番目のCEOとして、外部から迎えられた経験豊富な経営者)
11.ビジネス規模が大きくなる中で、どう企業文化を維持していくか
女性が少ないという印象があるIT系スタートアップで、著者たちの成功への道のりに興味を持ったこともありますが、その道のりは多くのスタートアップが出会う基本的な課題を堅実に解決してきたことにあります。
そして何よりも、著者たち女性ならではの視点から事業を始め、お互いを信頼し、長所と短所を補い合い、事業拡大に向けては経営や財務などの専門家を外部から迎えてチームとして取り組んだことにもあります。
起業家同士の人間関係の重要さ、それが顧客や従業員、仕入先の信頼を得て、小売店やブランドに大きな影響を与えながら急成長したスタートアップ成功の秘訣を解き明かした一冊でしたが、スタートアップに限らず企業内で事業を立ち上げ推進していくうえでも、多くの気づきを与えてくれます。
参考
海外進出第1号の日本版ギルトは、オープン1週間で会員数10万人を突破し、本国よりも早いスピードで拡大しているそうです。
日本への展開に際しては、出資を受け入れるなどソフトバンクと連携した展開を図っています。
今後、さらに強化すべきiPhoneやiPadなどの携帯端末、システム構築やインフラ技術を考えると、合理的な連携と考えます。
GILT(ギルト)ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー
アレクシス・メイバンク、アレクサンドラ・ウィルキス・ウィルソン(著)、孫 泰蔵(その他)、実川 元子(翻訳)
出版社:日経BP社 (2013/4/18)
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