ブリッツスケーリングのコアテクニック:ビジネスモデル・戦略・マネジメントのイノベーション

ブリッツスケーリングのコアテクニック:ビジネスモデル・戦略・マネジメントのイノベーション

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ブリッツスケーリング

リード・ホフマン『ブリッツスケーリング』日経BP(2020年)を参考にしてATY-Japanで作成

『ブリッツスケーリング』(リード・ホフマン、日経BP、2020年)は、巨大なビジネスを迅速に構築するための成長戦略「ブリッツスケーリング」を実行するタイミングや理由、世界に与えたインパクトなどを具体的かつ詳細に紹介した一冊です。

本書の中心は、ブリッツスケーリングを成功させるための3つの重要な要素(テクニック)を提示し、どのようにハイリスク・ハイリターンのプロセスをつくり上げていくかを詳しく解説しています。

「ビジネスモデル」「戦略」「経営(マネジメント)」の3つの要素(テクニック)は、極めて基本的で、地域に依存せず、どんなエコシステムにも適用できるものとしていますので、ポイントを整理します。

詳細は、世界的な大企業をつくり上げた著者の経験に加え、著者が実例から収集した情報などが本書に記述されていますので一読をお勧めします。

ビジネスモデルのイノベーション

真の価値創造は、技術の革新とビジネスモデルの革新が統合し、全く新しいサービス、プロダクトが生まれたときに初めて可能となる。

成功したハイテク企業は、大規模で持続可能な競争上の優位性を素早く達成できるビジネスモデルを一貫して生み出し、実行している。

最適なビジネスモデルでは、主要な4つの成長要因が最大化されており、主要な2つの成長阻害要因が最小化されている。

成長要因

市場規模

  • ・巨大企業に成長させたいのであれば、小さすぎる市場にはかかわらないようにする。
  • ・年間売上が10憶ドル以上の規模「ベンチャースケール」を達成できないスタートアップには、ほとんどのベンチャーキャピタルは投資しない。
  • ・市場規模を推測する際には、コスト削減とプロダクトの改良で市場をどれほど拡大できるかを評価する。
  • ・新しい市場を創出するにせよ、既存の市場を拡大するにせよ、現状からそこに至る納得性のある筋道を示さなければならない。

ディストリビューション(ユーザーに届けるまでの流通など)

  • ・優れた販売チャネルを備えた優れたプロダクトは、それらを欠くプロダクトにほぼ間違いなく勝つ。
  • ・モバイルファースト時代になると、流通・販売という課題はさらに重要性を増す。
  • ・モバイル時代の新しい販売手法は、「既存ネットワークの活用」と「バイラル性」というカテゴリに分けられる。

粗利益率の高さ

  • ・粗利益率が高ければ売上単位当たりの価値が高くなり、成長と拡大に投資できる資金の割合が高くなるということである。
  • ・プロダクトの利益率の高い安いによってプロダクト販売の難易度は変わらないし、利益率の高いビジネスは投資家にとって魅力的であり資金調達が容易になる。
  • ・企業の成長は粗利益率ではなく、総収入やプロダクトの総販売ユニット数に比例する。

ネットワーク効果

  • ・インターネットが世界の隅々まで普及した時代においては、スタートアップが長期にわたって成長を続け、永続的価値のあるブランドを構築するのに必要となる。
  • ・サービスのユーザー数または利用量の増加がネットワークの効用を増大させるなら、そのサービスにはプラスのネットワーク効果が働いている(需要側のスケールメリット、正の外部性)
  • ・目についた機能を単純に真似するのではなく、様々な種類のネットワーク効果を研究し、ビジネスモデルに合わせて設計することが必要である。
  • ・ネットワーク効果を活用するには、ネットワーク自体の急成長や普及を積極的に追求しなければならない。
  • ・インターネットで相互につながるようになると、市場優位性をもたらすネットワーク効果が発揮される均衡点にいち早く到達できる。
  • ・企業文化としてビジネスモデルの革新に重点を置き、ネットワーク効果主導型の新しいビジネスを生み出すことができる。
成長阻害要因

プロダクトとマーケットの不適合

  • ・プロダクトとマーケットが適合していれば急成長できるが、そうでないとスピードは遅くなり、いたずらにリソースを食うようになる。
  • ・努力して人脈をたどって、広い知識や経験を持つ人々の集合知ネットワークにアクセス(ネットワークインテリジェンス)して話を聞くことが有効である。
  • ・プロダクトがマーケットに本当に適合していると証明する唯一の方法は、プロダクトをユーザーの手に渡してみることである。

事業スケーリング

  • ・オペレーションの拡張性をビジネスモデルに組み込む。
  • ・チームメンバー増加に伴う組織内コミュニケーションの爆発を避ける方法のひとつは、必要な人間が少なくてすむビジネスモデルを考えることである。
  • ・もうひとつの方法は、委託業者やサプラーヤーなどに作業をアウトソースする。
  • ・人の課題以外には、ビジネス拡大に伴って柔軟に対応できるインフラストラクチャーを使用する。
成功したビジネスモデルのパターン

成功したビジネスモデルのパターンは抽象度の高い原則であり、パターンひとつを単純に採用するだけではビジネスモデルのイノベーションは十分に達成できない。

パターン1.モノではなくビットが重要

  • ・物質的な製品に依存するよりビットをベースにしたビジネスの方が、グローバル市場ではるかに簡単にサービスを提供でき、大規模な市場規模を達成しやすい。
  • ・ビットビジネスは、比例する変動費が少ないため粗利益率の高いビジネスとなり、成長阻害要因を避けるビジネス設計も容易になる。

パターン2.プラットフォーム

  • ・プラットフォームが一定の規模になると、その分野のデファクト(事実上の)標準となり、ネットワーク効果による広汎な互換性が生まれて圧倒的に優位となり、長期間にわたって他のプレイヤーが太刀打ちできなくなる。
  • ・プラットフォームの売上の粗利率は非常に高いため、そこから得た豊富なキャッシュをプラットフォームの改善に投資する余裕が生まれる。

パターン3.フリーミアムモデル

  • ・フリー(無料)には、他のどの価格にもない驚くべき魔力がある。
  • ・ディストリビューションとバイラル性を促進するツールとして圧倒的に強力であり、同時にネットワーク効果を効かせるために必要な臨界量のユーザーをできる限り素早く集めるのにも役立つ。

パターン4.マーケットプレイス

  • ・買い手と売り手の人数が増えれば市場は両当事者にとって効能を増し、ひとたび正のフィードバックが起きると、ライバルが別のマーケットプレイスをつくってシェアを獲得するのを非常に難しくする。
  • ・マーケットフレイスには需要と供給がダイナミックに均衡する点を見出す能力があり、これは人間の判断よりはるかに適正に価格を設定できる。

パターン5.サブスクリプション

  • ・売切モデルに比べてサブスクリプション・モデルはキャッシュフローで不利であり、データセンターとオンラインサポートのために追加の人員が必要になるが、これは既存企業の場合だけである。
  • ・従来のパッケージソフト販売と比べて市場規模が大きく、流通チャネルはインターネット配信で効率的であるため、大きな成功を収めることができる。
  • ・サブスクリプションでビジネスが一定の規模にスケーリングされると、売上予測の確実性が大きく向上する。

パターン6.デジタルグッズ販売

  • ・「モノではなくビット」という側面とプラットフォーム上で成立するという側面を持ち、収益性と拡張性の高いビジネスモデルである。
  • ・ビットベースのビジネスの様々な利点に加えて、デジタルグッズは売上額のほぼ全てが粗利益となる。

パターン7.フィード

  • ・真の力は、サービスが現実に利用される度合い、ユーザーエンゲージメントを促進するところにある。
  • ・フィードに対するユーザーの個々の行動、それが置かれたコンテキストを注意深く解析することで、適切な広告ターゲティングができる。

戦略のイノベーション

ブリッツスケーリングは、リスクと不確実性にさらされながら、独自の急成長の仕組みを支える戦略イノベーションそのものである。

ブリッツスケーリングを実行する意味があるのは、膨大な成果を出すには市場に素早く参入することが決定的に重要な戦略だと決心したときだけである。

早まったブリッツスケーリングは、「ブリッツスフェイリング(急激な失敗)」を招くことになる。

  • ・プロダクト・マーケットフィットができていない状況
  • ・ビジネスモデルがうまく行っていない状況
  • ・市場の状態が超急成長に向いていない状況
ブリッツスケーリングを実行すべきとき

ブリッツスケーリングを実行すべきときかどうかを考える際の主な要素は、以下のような状況にあるかどうかを確認する。

1.十分な市場規模と粗利益が見込めて、膨大な潜在的価値を生み出す支配的なリーダーや寡占の状態(技術革新が新しい市場をつくったり既存の市場を破壊したりするとき)

2.最初にスケーリングを実行できる場合や、ネットワーク効果や顧客を囲い込む方法を見つけられるとき

3.急こう配の学習曲線を最初に上っている場合

4.競争が激しい場合や大企業と戦う場合

5.ホットな市場(突き進むための資金や人材を集めやすい)

ブリッツスケーリングをやめるとき

市場の成長が止まったり、上限に達したときは、ブリッツスケーリングをやめるときであり、主に以下の状況が見えてきたときである。

1.成長速度の低下(市場やライバルと比べて)

2.ユニットエコノミクス(顧客当たりの粗利益)の悪化

3.従業員ひとり当たりの生産性の低下

4.管理コストの増加

経営(マネジメント)のイノベーション

成長過程で経営を進化させたり、最適化させたりする能力が必要となる。

そのためには、ブリッツスケーリングの指針となる「8つのキーポイント」と、伝統的な経営の既成概念を一変させ成長ペースに耐えられるようにする「人間の直感に反する9つの法則」がある。

8つのキーポイント

1.小さな組織から大きな組織に変わることであり、ステージ別の組織運営に加え、リーダーは心理面で克服しなければならない。

2.初期段階では、頭の回転が速く、不確実で変化の速い環境で様々な仕事を片付けられるゼネラリストを重視し、企業が成長するにつれて、代わりのきかないスペシャリストを採用する方向にシフトする。
ゼネラリストは、必要に応じて様々なタイプの細胞に変化する能力を持つ「組織の幹細胞」と考える。

3.ファミリーステージでは正式なマネジャーは要らないが、村ステージ以降になると幹部が必要になり、組織の外から経験者を採用する。
・チームメンバーの少なくともひとりが知っている人物を採用する。
・新しい幹部にはまず低い役職を与え、自分自身で能力を示させる。
・幹部がチームの信頼と信用を得たら、昇進を考える。

4.企業が成長するのにつれて、社内コミュニケーションの方法を非公式の個人的な対話から、公式、電子的、プッシュ型、プル型といった特徴をもつコミュニケーションに変える。
企業が成長し、業界でますます重要な役割を担うようになると、それまで以上に企業の機密情報を秘密にする必要がある。

5.インスピレーション(アドリブ)からデータ重視に変え、簡単に情報にアクセスできて根拠がわかりやすくし、意思決定者に何を伝えるかが重要となる。
天才主導デザインは革新的プロダクトをつくる方法かもしれないが、データ主導による微調整で補う必要がある。

6.企業が成長するにつれて、ひとつのプロダクトに集中する形から複数のプロダクトを提供する形に移行し、それに対応する組織をマルチスレッドに変える。
スレッドは戦略的に必要になったとき、そしてマルチスレッドが組織の焦点やリソース、効率に与えるマイナスの影響を現実的に検証してから追加する。

7.戦略の進化と企業カルチャーを革新して、攻めの一本やりから、攻めと守りの両方をこなせるようにする。
海賊から海軍の一員への転換:海賊として成功すれば、いずれ各ステージへとブリッツスケーリングを実行するのに必要な富と陣地を確保できるが、その時点で、規律ある海軍の正式な旗を手に入れる必要がある。

8.スタートアップからスケールアップした組織で長期間役割を果たすには、創業者として不可欠なパラドックスとつきあい、解決する能力を身に着ける。(創業者からリーダーへ)
・企業がブリッツスケーリングを進めるにつれて、自分の役割を変える謙虚さと判断力を維持しておく必要がある。
・自分自身をスケーリングする方法には、幹部を採用することによる権限移譲、仕事を拡大できる人の採用、自分を磨く(自分を学習マシンにする)の3つがある。

人間の直感に反する9つの法則

成功するためには、効率を上げ、リスクを最小限にするためにつくられたマネジメントの「法則」を破る必要がある。

不確実性や変化を前に大胆な成長目標を達成するためには、新しい法則に従う必要がある。

1.株主に心地よい安定感を与えられる秩序と規則性よりも、進んでカオスを受け入れ、不確実性の存在を認めて対策を講じる。
そのためには、過ちを修正する能力を備えているという自信を持つ。

2.マネジャーや幹部は、現在の成長ステージに「最適」でなくてはならない。
企業がどのステージにいるのかを理解し、そのステージに今現在必要な人物を採用する。

3.伝統的な「良い」マネジメントやプランニングは一定の安定性を前提にしているが、ブリッツスケーリングを実行しているときは、その安定性が手に入るとは限らない。
革新的なビジネスモデルをつくってスケーリングするときは、詳細な青写真などはないのが普通である。

4.「完璧な」プロダクトでゆっくり市場に参入するのではなく、不完全なプロダクトであっても今すぐに市場に参入する。
できるだけ早くテストをして、市場のフィードバックから正しく教訓を得ることに集中する。

5.どの火を燃えたままにしていいかを見極め、放っておけば企業が倒れてしまう火に集中する。
どの火事を燃えるままにしてよいかを判断する際の優先順位は、緊急性(成長能力を奪い取る火事)、消す際の効率、他の火事との依存関係である。

6.短時間でつくれる気の利いたツールは、たとえ後で捨てられるとしても、エレガントに設計された解決策より役に立つことがある。
あるステージでスケールしたコードやプロセスが、すぐ次のステージで破綻するかもしれないし、それを置き換えたものがすぐにスケールできるかどうかもわからない。

7.自分の仕事が遅れない限り、サービスをしないことも含めて、どんなカスタマーサービスでも提供する。
但し、大きく致命的な火事への対策が終わるまで、顧客を放置してもよい場合もある。

8.資金は常に必要な分より多く、できればずっと多く調達すべきである。
短期間で黒字にならなくても、顧客ベースを構築すれば、将来の売上収益と利益を増やして長期的な価値を高められる。

9.非効率でも許されることや、燃えるがままに放置できる火事がたくさんあるが、カルチャーを無視する選択肢はない。
・カルチャーは、具体的な指示やルールがないとき、あるいは自分の限界に達したときに、どう行動するかを左右するため重要である。
・自然発生的にでき上るものであるが、計画的にカルチャーを伝えるカギはコミュニケーションと人事管理にある。

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    ブリッツスケーリング
    苦難を乗り越え、圧倒的な成果を出す武器を共有しよう

    リード・ホフマン(著)、クリス・イェ(著)、ビル・ゲイツ(その他)、滑川 海彦(翻訳)、高橋 信夫(翻訳)
    出版社:日経BP(2020/2/14)
    Amazon.co.jp:ブリッツスケーリング

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