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21世紀の資本
トマ・ピケティ(著)、山形浩生、守岡桜、森本正史(翻訳)
出版社:みすず書房(2014/12/9)
Amazon.co.jp:21世紀の資本
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資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す。
格差は長期的にはどのように変化してきたのか?
資本の蓄積と分配は何によって決定づけられているのか?
所得格差と経済成長は、今後どうなるのか?
本書は、パリ経済学校経済学教授、社会科学高等研究院(EHESS)経済学教授の著者が、1998年から2013年までの15年にわたる研究を通して、18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと明晰な理論を展開している一冊です。
学術書にもかかわらず、2014年4月に英語版が公刊されるとアマゾン総合売上ランキング1位となり、以降数十か国で発売された世界的ベストセラーです。
700ページに及ぶボリュームで専門用語も並んではいますが、「格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある」本書を是非とも一読お薦めします。
特に、「富の格差」を膨大なデータを公開し裏付けている点、格差是正の対策として「富裕層への課税」を提言している点などは、私たちも考えなければいけないテーマです。
本書は、4部(全16章)で構成されています。
- ・第Ⅰ部「所得と資本」(第1章、第2章)では、基本的な概念を紹介しています。
- 国民所得、資本、資本/所得比率の概念を紹介し、世界の所得分布と産出がどのように推移してきたかを描き出し、
- 人口増加率と産出の成長率が、産業革命以来どのように推移したかを示しています。
- ・第Ⅱ部「資本/所得比率の動学」(第3~6章)では、資本/所得比率の長期的な推移の見通しと、21世紀に国民所得が労働と資本の間でどのように分配されるかを世界全体で検討しています。
- 長期的なデータが揃っているイギリスとフランスの例に、18世紀以来の資本の変容を示し、
- 続いて、ドイツと米国を検討しています。
- そして、分析の地理的範囲を全世界に広げて、歴史体験から教訓を引き出すことにより、今後数十年にわたる資本/所得比率の動向、資本と労働の構成比率を予測しています。
- ・第Ⅲ部「格差の構造」(第7~12章)では、
- 労働からの所得配分による格差、資本所有の格差と資本所得による格差がどのくらいなのか規模感を示し、
- 格差の歴史的な力学について、フランスと米国を比較しながら分析をしています。
- さらに、歴史的データの揃っている国に分析を拡大して、労働に関わる格差と資本による格差を分けて分析しています。
- そして、長期的にみた相続財産の重要性の変化を検討し、
- 21世紀最初の数十年における世界的な富の配分見通しを検討しています。
- ・第Ⅳ部「21世紀の資本規制」(第13~16章)では、これまでの章で事実から変化の原因を分析してきたことに対して、規範的・政策的な教訓を導き出しています。
- 現在の状況に適した「社会国家」がどのようなものかを検討し、
- 過去の経験と最近の傾向に基づいて、累進所得課税の見通しを提案しています。
- そして、21世紀の条件に対応した資本への累進課税がどのような形になりそうかを描き、理想化されたツールを政治プロセスから生じそうな他の各種規制と比べています。
- また、公的債務の問題と、それに関連して自然資本が劣化しつつある時代における公的資本の最適な蓄積について提言しています。
私の理論における格差拡大の主要な力は、市場の不完全性とは何ら関係ない…その正反対だ。
資本市場が完全になればなるほど、資本収益率 r が経済成長率 g を上回る可能性も高まる。
格差の問題を経済分析の核心に戻して、19世紀に提起された問題を考え始める時期はとうに来ているのだ。
著者らの研究の主な結果
富の分配史は昔からきわめて政治的で、経済メカニズムだけに還元できるものではない。
- ・1910年から1950年にかけて、ほとんどの先進国で生じた格差の低減は、戦争の結果であり、戦争のショックに対応するため政府が採用した政策の結果である。
- ・1980年以降の格差再興も、過去数十年における政治的シフトによる部分が大きい。
- ・格差の歴史は、経済的、社会的、政治的なアクターたちが、何が公正で何がそうでないと判断するか、さらにそれぞれのアクターたちの相対的な力関係とそこから生じる集合的な選択によって形成される。
富の配分の力学を見ると、収斂と拡大を交互に進めるような強力なメカニズムがある。
さらに、不安定性を拡大するような不均衡化への力が永続的に有力であり続けるのを止める、自然の自発的なプロセスなどない。
- ・収斂に向かう主な力は、知識の普及と訓練や技術への投資である。
知識と技術の分散こそが、全体としての生産性成長の鍵であり、国同士でもそれぞれの国内でも格差低減の鍵となる。
- ・格差拡大の力は、トップ所得層はすぐに残りの人々を大幅に引き離すことができ、成長が弱くて資本収益率が高いときには富の蓄積と集中プロセスに関連した格差拡大の力がいくつか生じることである。
格差拡大の根本的な力:r > g
r:資本収益率
g:経済成長率
r > g:株や不動産、債権などへの投資収益率が、常に経済収益率を上回る。
- ・資本の成長率は、労働によって得られる賃金の成長率を常に上回る。
- ・富裕層は、資本の成長の一部を再投資に回すだけで、賃金の増加と同等かそれ以上のペースで富を増やしていくことができる。
経済成長率
産業革命から現在までの世界の経済成長率(g)は平均で1.6%、歴史上最も成長率が高かった20世紀後半でも4%程度であった。
人口増加率の鈍化や中国などのキャッチアップ成長の一巡によって、世界の経済成長率は一段と鈍化する。
資本収益率
常に4~5%を維持する。
資本の定義
- ・国民経済計算(SNA)の国民貸借対照表の資産から負債を差し引いた純資産
- ・人的資本(労働力)を除き、国民所得(GDP)を生み出す際に使われる全資産ストックが対象
資産ストック:企業の建物や機械、住居などの実物資産、株・債権、特許、保険など金融商品のような非実物資産も含む
資本が労働を代替することが進んでいけば、その生産によって生まれる所得は、資本への分配が増え、労働への分配は減る。
家計、企業、政府機関などが保有する金融資産や負債の総額が、純財産(負債)より急激に増加したという意味で、これが富の構造を変えた。
金融資産(負債)の総額が拡大したということは、グロスの金融貸借取引が増加し、バランスシートも膨張したことを意味する。
格差拡大の背景
資本主義の第一と第二の基本法則から、資本を多く保有している富裕層に益々富が集中し、格差が更に拡大する
資本主義の第一基本法則:α = r β
α:国民所得の中で資本からの所得の占める割合
r :資本収益率
β:資本/所得比率
例(2010年頃の富裕国):β=600%でr=5%なら、α=30%
- ・国富が国民所得6年分で資本収益率が年5%なら、国民所得における資本のシェアは30%
- ・参考(21世紀初頭):不動産の収益率4~5%、投資平均収益率6~8%
資本ストックを、資本からの所得フローと結びつけるもの
- ・資本/所得比率(β)に資本収益率(r)を掛けるとフローのデータとなり、国民所得における資本所得のシェア(α)が出る。
- ・αは資本分配率で、年間の国民所得の中で労働に分配されなかった部分である。
資本収益率(r)が今の状態で維持された場合、資本/所得比率(β)の増加によって資本所得シェア(α)が上昇する可能性がある。
一方、労働取得シェア(労働分配率)は、減ることになる。
資本主義の第二基本法則:β = s / g
β:資本/所得比率
s :貯蓄率
g :成長率
例:s=12%でg=2%なら、β=600%
- ・毎年国民所得の12%を蓄え、国民所得の成長率が年2%の国では、長期的には資本/所得比率(β)は600%になる。
- ・国民所得6年分に相当する資本を蓄積することになる。
適用できる前提
- ・長期的に見た場合のみ有効となる。
- ・人間が蓄積できる資本に注目した場合だけである。
- ・資産価格が平均で見て、消費者物価と同じように推移する場合だけである。
貯蓄率が高く、ゆっくり成長する国は、長期的には莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与える。
- ・ほとんど停滞した社会では、過去に蓄積された富が重要性を持つようになる。
- ・低成長時代が復帰し、成長や人口増加が鈍化したため、資本が復活する。
- ・成長率のわずかな違いでも、長期的には資本/所得比率(β)に大きな影響を及ぼす。
人口増加率の鈍化や新興国のキャッチアップ成長の一巡などにより、現在約3%の世界の成長率も今世紀後半には1.5%まで低下する可能性がある。
これに対して、貯蓄率が10%前後で安定するとしたら、資本/所得比率は700%に近づき、最も格差の激しかった18~20世紀初頭の欧州に匹敵するようになる。
あらゆる社会科学者、あらゆるジャーナリストや評論家、労働組合や各種傾向の政治に参加する活動家たち、そして特にあらゆる市民たちは、お金やその計測、それを取り巻く事実とその歴史に、真剣な興味を抱くべきだと思うのだ。
お金を大量に持つ人々は、必ず自分の利益をしっかり守ろうとする。
数字との取り組みを拒絶したところで、それが最も恵まれない人の利益にかなうことなど、まずあり得ないのだ。
まとめ(私見)
本書の主張
- ・資本主義は格差を拡大するメカニズムを内包している。
- ・富裕層に対する資産課税で不平等を解消しなければならない。
さもなければ中間層は消滅する。
本書は、3世紀にわたる20ヵ国以上のデータを収集し、富と所得の歴史的な変動について分析し、対応策を提言しています。
税務当局が保有する統計データや小説から当時の社会的背景などを活用して、富裕層が占める所得シェアや資本・所得内容、さらには相続財産の影響度の推移などが詳細に記述されています。
そして、第Ⅳ部「21世紀の資本規制」では、税制や社会政策、公的債務の問題などについて、著者の処方箋を展開しています。
著者は空想的な発想とはしていますが、「資本に対する国際的な累進課税」を提唱しています。
課税対象となるのは、あらゆる金融・非金融資産から負債を差し引いた個人保有の純資産とし、以下のアイデアを提示しています。
- ・100万ユーロ未満:0%
- ・100万~500万ユーロ未満:1%
- ・500万ユーロ以上:2%
あらゆる面でグローバル化が進展している現在においては、著者の提言の実現は難しいでしょうが、国際協調の課税の下で、一定以上の資産と負債の情報を各税務当局が把握できれば、実現の可能性は出てくるのではないかと考えます。
格差や貧困、社会制度などを考えていくうえでは、本書の分析や提言だけでは無理があると感じますが、所得上位層が中心とはいえ膨大な税務データを活用して分析した本書を一読する価値はあります。
格差を社会がどのようにとらえ、それを計測して変化させるためには、どのような政策や制度を採用するか次第でしょうが、他人事ではなく「自分たち自身として何をすべきなのか」を考えるきっかけとなる一冊です。
New thoughts on capital in the twenty-first century
2014/10/06 Thomas Piketty
本書に関係する情報
The World Top Incomes Database(WTID)
世界トップ所得データベース
本書に関する他サイト
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2014年12月29日 現代ビジネス [講談社]
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ピケティの「21世紀の資本論」を読む
2104年12月21日 東京財団
ピケティ「21世紀の資本論」が指摘したこと
2014年12月19日 東洋経済オンライン
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21世紀の資本
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出版社:みすず書房(2014/12/9)
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