Ⅳ.「イノベーションのジレンマ」と「両利きの経営」

Ⅳ.「イノベーションのジレンマ」と「両利きの経営」

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Ⅳ.「イノベーションのジレンマ」と「両利きの経営」

  • コンピテンシー・トラップ
    「イノベーションのジレンマ」と同じようにイノベーションの停滞リスクを論じているが、より組織に本質的に内在するリスクとして理論化されており、世界の経営学で主に研究されている。
  • ・世界のイノベーション研究のフロンティアで経営学者の多くが研究しているのは、「知の深化(Exploitation)」と「知の探索(Exploration)」を行う「両利きの経営(Ambidexterity)」である。
  • ・イノベーションの停滞を避けるためには、企業は組織としての「知の探索」と「知の深化」のバランスを保ち、戦略・体制・ルールを作ることが必要である。
  • ・従業員の意識を高めることで、ひとり一人が常に「両利きの経営」を意識するような企業文化を作ることができる。
  • ・市場や技術の変化が速い産業では、オープンイノベーション戦略により、「知の探索」を継続することが大切である。
1.イノベーションとは

(1)企業が革新的な技術、あるいは商品やビジネスモデルを生み出すことである。

(2)イノベーションを生み出す一つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせることである。

(3)イノベーションを初めて概念化
ジョセフ・シュンペーター教授(1934年)
他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。
いわゆる開発とは、新しい組み合せを試みることにほかならない。

2.「知の範囲」がイノベーションに与える影響を分析

リタ・カティーラ教授とゴータム・アフージャ教授(2002年)

(1)企業の「知の幅」が広くなるほど、その企業は新しい特性の付加された製品を生み出しやすい。

(2)しかし、極端に「知の幅」が広がると、かえってマイナスの効果を持つ。

(3)知と知の組み合わせから新しい知を生み出すが、そのために企業は「知の幅」をほどほどに広げる必要がある。

3.「オープン・イノベーション戦略」の本質も、「知の範囲」を広げることにある。

(1)オープン・イノベーション戦略
企業と企業が提携して共同研究や技術ライセンシングを行うこと。

(2)複数の企業が提携関係を通じてほどほどに「知の範囲」を広げ合うことで、新しい知を生み出すことができる。

(3)レイチェル・サンプソン教授(2007年)

  • ①企業同士が提携することで知が多様化してイノベーションを促すが、その幅が広すぎるのはよくない。
  • ②提携パートナーを選択するときには、自社の「知の範囲」とパートナー企業の「知の範囲」との関係を慎重に検討することが必要である。

(4)知のポートフォリオ
企業は自社が関連する提携の全容を正確に把握し、「探索」と「深化」のバランスをとることが重要である。

  • ①フランク・ロサーメル教授とデビッド・ディース教授(2004年)
    基礎研究などの川上部門の企業連携は「探索型」、臨床試験などの実用化に近い段階の提携は「進化型」に近く、そのバランスをとることが必要である。
  • ②ロリ・ロゼンコブフ教授(2006年)
    新しい企業パートナーと提携を結ぶことは「探索型」、同じ企業と繰り返し提携することは「進化型」である。
4.両利きの経営
 =知の深化(Exploitation)+知の探索(Exploration)

(1)ジェームズ・マーチ教授(1991年)
新しい知を求める活動を「知の探索」、既存の知識を改良していくことを「知の深化」といい、企業組織は本質的に「知の深化」に傾斜しがちで「知の探索」をなおざりにしやすい。

(2)事業が成功している企業ほど「知の深化」傾向が強く、これを「コンピテンシー・トラップ(Competency Trap)」という。

(3)「両利きの経営」とは、「コンピテンシー・トラップ」にはまらないようにするためのコンセプトである。

(4)イノベーションのジレンマ
クレイトン・クリステンセン(2001年)

中心命題
競争環境を一変させるような「破壊的なイノベーション」が発生したときに、成功している企業の経営者・企業幹部ほどその経営環境の変化を十分に認識できず、それに対応できない。

(5)レベッカ・ヘンダーソン教授(2006年)
「イノベーションのジレンマ」の本質は経営者や企業幹部の認知の問題としてとらえているのに対し、「コンピテンシー・トラップ」の本質は組織の問題に求めている。

(6)「両利きの企業文化」に注目
ジュリアン・バーキンショウ教授とクリスティーナ・ギブソン教授(2004年)

従業員が常に「両利き」を意識し、仕事の時間配分をするような職場環境や文化を持っている企業ほどパフォーマンスが高い。

参考

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    ≫ Ⅳ.「イノベーションのジレンマ」と「両利きの経営」

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