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ハーバード戦略教室
シンシア モンゴメリー(著)、Cynthia A. Montgomery(原著)、野中 香方子(翻訳)
出版社:文藝春秋(2014/1/30)
Amazon.co.jp:ハーバード戦略教室
いかにして、この危うい時代を生き抜く戦略を立て続け、世界と伍する、価値あるビジネスを築くのか
本書は、ハーバード大学で20年以上に渡って教鞭をとっている著者が、世界中のエリートだけが参加を許される秘密講義(EOPプログラム)の真髄を初めて書籍化した一冊です。
EOPとは、Entrepreneur(起業家)、Owner(オーナー)、President(経営者)の略で、この講義には、年間売上が約10億円~2000億円の企業の創業者、オーナー、経営者で、真の意味で組織を引っ張っていかなければならないリーダーのみしか参加できないコースです。
本書では、具体的な有名企業のケーススタディをもとに、「どのようにして戦略が成功し、また失敗するか」、「戦略をいかに実現するのか」、「それを率いるリーダーの資質とは何なのか」など、議論で議論されていることがが綴られています。
企業や事業を率いるリーダーの方々、戦略論に興味ある方々にとって、戦略の根本を理解し、ストラテジストとして必要な知識に加え、自らが舵を取ることの重要性など、多くの気づきを得ることができる一冊です。
本書は、戦略の立案者とリーダーは不可分であり、その指揮官を「ストラテジスト(戦略家)」と称して、最高のストラテジストになるための知恵と手法を詳細に解き明かしています。
しかし、よくあるフレームワークや手法を解説した書籍ではなく、企業経営と戦略、その根底にある考え方や行動理念にまで掘り下げ、その先の人生観までをも考えさせる一冊です。
戦略を成功させるには、専門家の分析および洞察やハウツー本の教えだけでなく、正しい判断力と責任感を持って継続的にその取り組みを導く指揮官が必要とされ、それはリーダーであるあなたをおいて他にいないということにも気づいていただきたい。
- ・魅力のない業界にあえて進出し、手強い力に立ち向かったストラテジストの苦い教訓
家庭用品業界で大成功したマスコは、なぜ家具業界への進出に失敗したのか?
- ・逆境から抜け出す道をいかに見つけ出し、会社を際立った存在にした抜け目ないストラテジスト
ただ安いだけではないイケアは、どのようにして家具業界で成功したのか?
- ・戦略を持つリーダーと持たないリーダー
かつて類まれなデザイン力を誇り、ハイファッションの象徴的な存在であったったグッチが、いかにして低迷から脱出したのか?
- ・戦略決定後も続く戦いを思い知らされ、様々な経験を積み、多くを学んできたリーダー
窮地に陥り、追放されたジョブスは、どのようにしてアップルを復活させていったのか?
本書に出てくるケースで、自分が「ストラテジスト」だったら、どんな対応をするか、その結果は成功したのか、それとも失敗したのかを疑似体験することができます。
また、ストラテジストは単なる「戦略家」ではなく、企業を守り導く「守護者」でなければならないとし、自ら判断し、目標を追求し、責任を持って組織を導くことの必要性を解いています。
さらに、企業の戦略を簡素でわかりやすい文言になるまで練り上げることの重要性をあげ、その作業にインダストリー・エフェクトやファーム・エフェクト及びSWOT分析などの従来の経営戦略手法を活用していることも特徴的です。
産業効果(インダストリー・エフェクト)
業界の競争環境は、複数の経済的な「力」によって生じる。
- ・その力の一部は、業界内の競争に起因する。その他、提供業者、顧客、代替品、新規参入者との力のバランスも影響する。
これらの力は、個々の企業や経営者がコントロールできるものではない。
- ・業界に昔から存在するものであり、経営者が対処しなければならない現実である。
「魅力的」な業種とは、業界内にはたらく力が企業の収益を促進する業種であり、「非魅力的」な業種とは、そうした力が企業の収益を制限する。
教訓
1.業界には前進を阻むいくつもの「力」が存在することを理解し、それにいかに対処すかが戦略である。
2.それらの「力」に対処する方法を見つける。
巧みな段取りやマイナスの力に対処し、プラスの力を活用する知恵が求められる。
3.それらの「力」をなめてかかってはいけない。
その力は、事業の運命のみならず、自身の運命も左右する。
企業の目標と企業効果(ファーム・エフェクト)
目標は、会社の本質を語る。
- ・その会社が、なぜ存在するのか、どのような独自性を備えているのか、他とどう違うのか、などの疑問に答えるものである。
- ・「目標」と「競争上の優位」はイコールで結ばれることも多いが、「競争上の優位」は、競争に焦点をおいた場合の目標にすぎない。
- ・「目標」は具体的で、理解しやすいものでなければならない。
- ・「目標」は、正確に表現すればするほど、戦略を発展させる強固なよりどことなる。
また、表現を練り上げていくいくうちに、仕事に役立つ新たな洞察が得られる。
企業効果(ファーム・エフェクト)
同じ業界に属する企業の、利益率のばらつき
- ・ストラテジストの仕事と直結しており、長いスパンで見て、ある企業が成功しているかいないかを知る最善の指標のひとつ。
経営者たちは、持続可能な競争優位、ポジショニング、差別化、価値創造、ファーム・エフェクトといった戦略に関する概念をしばしば口にするが、それらはいづれも、目標があって初めて生まれるものである。
良い目標とは
良い目標は、気高いものである。
- ・企業の取り組みに、品格や威厳を付与する。
- ・目標を追求する社員はもちろん、客やその企業に関係する全ての人を奮起させる。
良い目標は、立ち位置をはっきりさせる。
- ・選択基準を明確にする。
- ・あるものを目指すということは、それ以外のものは目指さないということである。トレードオフを伴う。
良い目標は、他社との違いを際立たせる。
- ・自社の存在意義、対象とする客層、満たそうとする市場ニーズをはっきりさせ、他社との差別化を図ることになる。
- ・目標は、組織の焦点、あるいは原理となり、それを中心として様々なイノベーションが生まれ、他社と違う特徴が育ち、それらが矛盾なく融合していく。
良い目標は、価値創造と価値獲得の土台をつくる。
- ・自社の目標が正しいかどうかを見極める指標は、他社との「決定的な違い」をもたらしているかである。
結果が伴わなければならない。
- ・顧客の満足度と供給業者が負担するコストの差を広げれば広げるほど、より大きな価値が生まれる。
生産性のフロンティアと価値創造システム
顧客の支払い意欲(顧客に提供する値段以上の価値)と、製造コストの関係を図式化したもの
- ・ふたつのバランスがとれている製品あるいは企業は、フロンティアのライン上に位置する。
- ・「理念ではなくデータで」「直感ではなく実際の経験に基づいて」課題に取り組むことが必要である。
価値創造システム(戦略の輪)
円の中心:「目標」企業の存在意義(他社とどこが異なり、何が優れているか)
周縁部の活動と資源:製品とターゲット市場、マーケティングとサービス、販売と流通経路、製造、調達、人的資源、情報システム、研究開発、財務
- ・輪をつくる過程で、自社の現状を直視し、それぞれの項目をどう変えられるか、どう変えるべきなのかを熟慮することにある。
- ・個々のピースが他のピースと繋がって、会社の理想的な姿が浮かび上がってくる。
- ・自社の特徴を自問し、その答えを磨き上げていくうちに、他社に比べて優れているところや劣っているところが見えてくる。
さらに、どの特徴が会社に独自性と真の強みを付与しているか、あるいは付与しうるかがわかってくる。
- ・戦略を、目標に導かれ、組織の実情に応じて働く「価値創造システム」と見なせば、ポイントは見えてくる。
それは、理想と現実的な行動をつなぐ橋となる。
ストラテジストの役割(仕事)
会社の向かうべき方向を決め、日々の決定を下し、軌道修正していく。
- ・プロセスの監督/評価/決断/遂行を何度も繰り返し、それを継続する。
- ・そして、どの機会を諦め、どの機会を捉えるかを決断する。
勇気と、自分の会社についての基本的なところを問い直し、問い続ける謙虚さが求めれれる。
自信だけで突き進めば、「大胆さ」は往々にして「無謀」になる。
- ・スーパーマネージャー神話
自信を持って行動すれば、どんな障害や困難も乗り越えられると確信しており、実際にそうしてきた。
産業効果(インダストリー・エフェクト)について理解し、他社と競い合う場にそれらがどのように作用するかを知っておく。
- ・勝利を収めるには、戦う場所の選択が肝心だとということを知っていて、「優れた経営者は、どんな状況でも成功する」などと考えていない。
目標は、多くの人の知恵を寄せ合って作っていくものである。
- ・目標があって初めて、ゲームに参加する権利が得られる。
- ・しかし、自分の会社に目標があるかどうか、またその目標が実現可能なものなのかどうかを見極めるのは、リーダーの重要な責務である。
- ・経営状態が悪化した事業の経営者が、再生を図ろうとするとき、何よりも難しいのは新たな目標の設定である。
- ・目標を定め、それを実現できるよう組織を整える。
どんなに優れた戦略を立案しても、永遠に続かない。
- ・常に変化し、企業価値を高め続けることが必要である。
- ・日々年々、物語の全体を見ながら調整していく必要があり、そのためにリーダーの存在が欠かせない。
- ・持続可能なのは、特定の目的や優位性、あるいは特定の戦略ではなく、価値を付加し続けるという姿勢だけである。
企業が重要な存在であり続けるためには、継続的に導き、発展させていくことが欠かせない。
会社を進むべき方向へ変化させるために号令をかける。
- ・会社が変化するのは、業界が変化し、人々の嗜好が変化するからであり、社員が変化し、新たなスキルともたらすからである。
戦略とは決まりきった方策でもなければ、問題の答えでもないということに気がついた。
むしろ戦略とは、企業の競争力や独自性の土台となる価値創造システムであり、閉じたものではなく、開かれたものであるべきなのだ。
それは進歩し、発展し、変化し続けるひとつのシステムなのだ。
優れた戦略は、素朴な問いに答えること
誰に対して
どのような商品またはサービスを提供しているか
他社と何が異なり、何がすぐれているか
その原動力となっているのは何か
すぐれた戦略の特徴
明確で説得力ある目標が土台となっている
本物の価値を付加する
明確な選択
価値創造システムを創る
意味のある測定基準
情熱
自分がストラテジストであれば、以下の質問にどう答えるでしょうか?
その答が今は見つからなくても、これからどんな行動をすべきなのかを考えてみてはいかがでしょうか?
あばたの会社は社会にとって重要な存在ですか?
もしあなたが今、会社を閉じたら、顧客は何か困ることがあるだろうか。
彼らはどのくらい不自由な思いをし、その状態はいつまで続くだろう。
代わりとなる会社を見つけることはできるだろうか。
戦略とは何か、どのように策定し評価するか。
競争優位を持続するにはどんな戦略が必要か。
- 戦略とは、独自の方法で市場のニーズを満たし、利害関係者に利益をもたらすためのもの。
- 競争に勝つことも重要であるが、それはニーズを満たした結果であって、ゴールではない。
自分は戦略の管理者でもなければ専門家でもなく、存在しないものを創出することにあります。
推進力とイニシアティブ、厳しさと創造力、好奇心と意欲をもって、変化の火付け役となり、率先して戦略に取り組んでいかなければなりません。
その意味において、現実の競争環境に即した動的モデルの基本を学べる一冊でした。
本書に関係する情報
ハーバード・ビジネス・スクールが提供しているエグゼプティブ・プログラム
Executive Education - Harvard Business School
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シンシア モンゴメリー(著)、野中 香方子(翻訳)
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