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今週、NECと富士通の2013年度通期決算(2013年4月1日~2014年3月31日)と2014年度通期予想が発表されましたので、概況を整理します。
ICT関連事業が中心の両社は、国内IT投資の回復基調により業績が支えられていますが、官公庁と通信業界への依存が高いことやWindowsXPのサポート終了特需後の事業の先行きにも不透明感が残ります。
NECと富士通の2013年度通期(2013年4月1日~2014年3月31日)の決算概要は、以下の通りです。
特にNECは、ピークだった2000年度の売上高5兆4,000億円に対し、当期は3兆431億円と減少してきましたが、子会社の株式売却もあって最終黒字を達成しています。
NECは過去数十年間に渡り、スマートフォンやDRAM、さらには家電からの撤退、大規模なリストラ、中国レノボとのPC事業合弁など構造改革を繰り広げて来ています。
これらは、NECに限らず富士通にも同様の課題でもあります。
注力領域や海外展開などの成長戦略の具体化と加速、収益改善に向けた取り組み強化などの成否が、両社の業績を左右しそうです。
NEC
- ・売上高は、前年同期に対して285億円(0.9%)減の3兆431億円
- ・営業損益は、同85億円減の1,062億円
- ・純損益は、同33億円増の337億円
- ・2014通期決算予想は、以下の通りとしています。
売上高:3兆円、営業損益:1,200億円、純損益:350億円
富士通
- ・売上高は、前年同期に対して3,807億円(8.7%)増の4兆7,624億円
- ・営業損益は、同543億円増の1,426億円
- ・純損益は、同1,285億円改善の486億円
- ・2014年度の通期決算予想は、IFRS任意適用により以下の通りとしてます。
(下段)内は、2013年度業績をIFRSに基づいて再算出
売上高:4兆8,000円、営業損益:1,850億円、純損益:1,250億円
(売上高:4兆7,624円、営業損益:1,472億円、純損益:1,132億円)
NEC
売上高、営業損益、純損益(2013年4月1日~2014年3月31日)
売上高と営業損益は前年同期を下回りましたが、純損益は増益となっています。
- ・売上高は、前年同期に対して285億円(0.9%)減の3兆431億円となっています。
- パブリック事業やエンタープライズ事業が増収となったものの、その他の事業が携帯電話販売事業の非連結化などによる減収が影響しています。
- なお海外売上比率は、18.7%となっています。
- ・営業損益は、前年同期に対して85億円減の1,062億円となっています。
携帯電話販売事業などの売上減少に加え、前期には液晶ディスプレイ関連の特許販売があったことによるものです。
- ・純損益は、前年同期に対して33億円増の337億円となっています。
スマートフォン事業撤退に伴う特別損失約220億円を計上したものの、NECモバイリング及びNECビッグローブ(売却益約270億円)の株式売却による特別利益計上が寄与しています。
セグメント別(2013年4月1日~2014年3月31日)
セグメント別では、2部門が増収増益、1部門が増収減益、1部門が減収減益となっています。
パブリック事業
- ・前年同期比8.5%増の7,384億円(営業利益:同96億円増の586億円)
- ・官公庁及び公共向けが堅調に推移したことにより増収
- ・2014年度見通し
売上高は前年比8.3%増の8,000億円、営業利益は144億円増の730億円
エンタープライズ事業
- ・前年同期比8.2%増の2,723億円(営業利益:同11億円増の65億円)
- ・流通・サービス業向けが堅調に推移したことにより増収
- ・2014年度見通し
売上高は前年比1.0%増の2,750億円、営業利益は25億円増の90億円
テレコムキャリア事業
- ・前年同期比2.3減の7,258億円(営業利益:同122億円減の603億円)
- ・売上高は、海外通信運用管理ソリューションや無線通信機器が増収したことによる増収
- ・営業損益は、次世代ネットワーク技術SDNやTOMS関連投資費用の増加に加え、前期に知財関連の一過性の利益計上があったことなどにより減益
- ・2014年度見通し
売上高は前年比6.1%増の7,700億円、営業利益は57億円増の660億円
システムプラットフォーム事業
- ・前年同期比4.9%増の7,808億円(営業利益:同20億円減の307億円)
- ・売上高は、ハードウェアの増加が寄与して増収
- ・営業利益は、プロジェクトミックス悪化などにより減益
- ・2014年度見通し
売上高は前年比0.7%減の7,750億円、営業利益は43億円増の350億円
その他
継続的な事業ポートフォリオの見直し策として、以下を実施しました。
- ・NECモバイリング㈱の保有全株式を丸紅㈱子会社MXホールディングス㈱に譲渡(2013年6月19日付け)
- ・NECビッグローブの約78%保有株式を日本産業パートナーズ㈱に譲渡(2014年3月31日付け)
- ・子会社などの主な再編
- NECフィールディング(NEC持分67.11%)の完全子会社化(2014年度第2四半期予定)
- ソフトウェア子会社7社の再編(NECソリューションイノベータを2014年4月1日発足)
- ハードウェア開発・生産子会社4社の再編(新会社を2014年7月に発足予定)
携帯電話事業の状況
- ・今まで抱えていた携帯電話端末事業の課題を解消し、今後の事業に関する損失リスクが全てなくなったことを強調
- ・従来型携帯電話機の事業方針見直し
- 国内事業は既存の技術資産を活用し当面継続
- 海外事業は収束
- ・追加費用
- 特別損失を年間約220億円を計上
- NECカシオモバイルコミュニケーションズの子会社である海外現地法人の清算、海外向けの新規開発の中止に伴う費用及び国内向け保守関係費用
2013年4月発表の「2015中期経営計画」の3つの経営方針に基づき、持続的な売上成長、グローバル展開力のある社会ソリューション事業の確立を推進中
- ・経営方針
①社会ソリューション事業への注力、②アジアへの注力、現地主導型ビジネスの推進、③安定的な財務基盤の構築
- ・営業利益率5%、海外売上比率25%の早期実現を目指す
- ・ROE10%を目指す(2013年度:4.8%)
富士通
売上高、営業損益、純損益(2013年4月1日~2014年3月31日)
売上高、営業損益、純損益の全指標で、前年同期を上回っています。
- ・売上高は、国内は2.7%の増収、海外は20.2%の増収(為替影響を除いても1%の増収)となり、前年同期に対して3,807億円(8.7%)増の4兆7,624億円となっています。
- 国内は、携帯電話が大幅な減収となったものの、システムインテグレーションが公共、金融向け中心に伸長し、ネットワークプロダクトやパソコンの増収が貢献しています。
- 海外は、EMEA(欧州、中近東、アフリカ)は新興国向けパソコンが減収したものの、インフラサービスの構造改革効果、米州向けオーディオナビゲーション機器や光伝送システムの増収、アジア・中国向けオーディオナビゲーション機器やインフラサービスの増収などにより、全ての地域で黒字に転換しています。
- なお海外売上比率は、35%となっています。
- ・営業損益は、前年同期に対して543億円増の1,426億円となっています。
LSI事業や海外事業での構造改革効果約300億円に加え、人事施策の効果約200億円が寄与しています。
セグメント別(2013年4月1日~2014年3月31日)
セグメント別では、2部門が増収増益、1部門が増収減益となっています。
テクノロジーソリューション事業
- ・前年同期比10.2%増の3兆2,430億円(営業利益:同351億円増の2,091億円)
- ・国内は6.1%増収、海外は18.2%増収(為替影響を除くと前年同期並み)
- ・サービス事業
- 同10.1%増の2兆6,272億円(営業利益:同265億円増の1,511億円)
- 国内は5.5%の増収(海外は17.9%の増収、為替影響を除くと前年同期並み)
- ISP事業で回線料金込みのパック商品から単体商品へシフトや採算性重視による獲得会員数の減少影響があったものの、公共や金融向けシステムインテグレーションの増収及びアウトソーシングの堅調など
- クラウド関連事業の売上高は、前年同期比20%弱増の2,000億円弱(2014年度の目標は3,000億円)
- ・システムプラットフォーム事業
- 同10.9%増の6,157億円(営業利益:同86億円増の579億円)
- 国内は8%の増収(海外は19.9%の増収、為替影響を除くと前年同期並み)
- 海外のUNIXサーバ新製品販売が伸び悩んだものの、国内の通信キャリア向けのLTE拡大、公共の大型システム向けサーバ関連が貢献
ユビキタスソリューション事業
- ・前年同期比3.2%増の1兆1,254億円(営業利益:同317億円減の△221億円)
- ・国内は3.5%減収、海外は23.9%増収(為替影響を除くと7%増収)
- ・パソコンは、個人向け市場が縮小したものの、法人向けがXPサポート停止による買い替え需要により大幅に増収
- ・携帯電話は、上期は通信キャリアの販売方針見直し影響で大幅減収となったものの、下期は推奨機種に選定されたことにより前年並みに回復
- ・オーディオナビゲーション機器は、エコカー補助金制度終了後低迷していた新車販売台数の回復及び消費税率引き上げ前の駆け込み需要により増収
デバイスソリューション事業
- ・前年同期比11.1%増の6,002億円(営業利益:同426億円増の283億円)
- ・国内は1.3%減収、海外は26.1%増収(為替影響を除くと5%増収)
- ・国内は、LSIではデジタルAVや産業機器向けは減収、電子部品では半導体パッケージや電池が減収、通信機器向け光通信モジュールが増収、全体ではほぼ前年並み
- ・海外は、スマートフォン向けLSIが伸長
その他
パソコンと携帯電話の2013年度通期売上高及び出荷台数は、以下の通りです。
- ・IFRSベースの売上高は7,993億円(2014年度予想は9.9%減の7,200億円)
携帯電話事業は赤字となるものの、パソコン事業は台数減予想でも黒字を維持予定
- ・パソコンは、590万台(前年度583万台、2014年度予想510万台)
- ・携帯電話は、370万台(前年度650万台、2014年度予想310万台)
- 製造子会社の集約などでコスト構造を改善し、タブレットを含めた月産30万台で利益を出せる体制に移行
- 富士通モバイルフォンプロダクツ㈱と富士通周辺機㈱の2つの量産工場を2014 年4月に統合し、量産品製造機能を富士通周辺機㈱に集約
前年度に決定した再編方針に従いLSI事業の構造改革を推進
- ・2013年8月にはマイコン・アナログ事業をスパンション・グループに譲渡し、2014年2月にはGaNパワーデバイス事業について米Transphorm,Inc.と事業統合
- ・2014年4月には、システムLSI(SoC)事業についてパナソニック㈱とファブレス形態の統合新会社を設立し、㈱日本政策投資銀行の出資及び融資を受けることについて3社間で基本合意
中長期的な会社の経営戦略(中期経営計画は6月下旬発表予定)
- ・テクノロジーをベースとした、グローバルに統合された企業になることを目指し、3つの成長テーマとして、「既存ビジネスの強化」「グローバル化の加速」「新たなサービスビジネスの創造」を推進
- ・2014年4月1日付けの組織変更で、ビジネスのグローバル化対応に向けたマトリクス組織の強化を実施
- ・2014年度から国際会計基準(IFRS)を任意適用
電機各社の決算発表
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