書籍 ビジネスモデル・イノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論

書籍 ビジネスモデル・イノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論

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ビジネスモデル・イノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論

野中 郁次郎、徳岡 晃一郎(編著)
根来 龍之、浜屋 敏、カルロス・ゴーン、大屋 智浩、旭岡 叡峻、紺野 登、木村 雄治(著)
出版社:東洋経済新報社(2012/8/14)

Amazon.co.jp:ビジネスモデル・イノベーション

未来の社会を創造するビジネスを生み出す!

ビジネスモデルの理論から具体的手法まで、各分野の第一人者が、企業やNPOなどの先進事例を交えながら多角的に紹介した、変革のための一冊。

日産自動車のカルロス・ゴーンCEOへのインタビューを収録

 

本書は、ビジネスモデル・イノベーションに向けた「事業創生モデル」を実践・研究されている方々が章単位に分担され、独自の視点から言及されています。

章単位で、充実した内容で完結していますので、興味ある章だけを読んでも価値ある一冊です。

ビジネスモデルの変革を模索しているビジネスリーダーの方々、イノベーションを牽引する人材を発掘・育成しようとしている人事担当の方々、企業や事業の枠を超えて国や地域の新たな社会インフラ事業を推進しようとしている方々などにとって、本書は理論分析的ではなく、実践に向けた指針となる書籍です。

特に第2章や第6章では、当グログでもご紹介した書籍『ビジネスモデル・ジェネレーション』(アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール(著)、2012)について、著者の視点から概念を再整理し、評価から実践に向けて提言されていますので、『ビジネスモデル・ジェネレーション』及びそこで紹介されているビジネスモデル・キャンパスについて理解を深めることもできます。

本書では、

  • ・現在の日本企業の経営力喪失の要因の一つとして、欧米流経営を無批判に模倣しため、論理分析過多、経営計画過多、コンプライアンス過多などの状態にあることを警告しています。
  • ・そこで、虚業から実業に回帰し、自社の価値創造の仕組みとしてビジネスモデルとその根底にある価値観を徹底的に見直し、組織的知識創造が活発にできる仕組みを内包したビジネスモデルを再創造することが必要としています。
  • ・企業は、「収益を上げるモデル(収益性)」と「より良い社会を志向する(社会性)」という二律創生を共通感覚として組み込んだ新しい次元で競争し、世界の発展、未来の創造を目指すべきとしています。
  • ・この新しい価値観を軸にした「賢慮の戦略論」こそが、日本が発信すべき新たな戦略論とし、それを具現化するのが「事業創生モデル」としています。

事業創生モデル

(Business Creating Model):知識ベースのビジネスモデルの変革

共通善をベースにしたビジョンをもとに、組織的知識創造の枠組みを築き、既存産業の固定概念や企業内の「しがらみ」を取り払ったうえで、世界の再創造のためのビジネスモデルに作り替える組織能力を構築する。

 

組織が硬直構造を打破するためには、

  • ・ビジネス全体を俯瞰的に環境との関係性の中で把握し、
  • ・自らの経験に基づく知識(実践知)、そこから洞察得た直感とを駆使して次代の世界観を示す(骨太な意味づけ)が必要である。
  • ・そして、それを牽引するのがリーダーの役割である。

ビジネスモデル・イノベーション

(BMI:Business Model Innovation)

ビジネスモデルの創造、再構築の総称

自分たちはどの様な世界を生きたいのか、どの様な将来の社会像を描きたいのか、それが社会から今後求められるようになるのか、共通善に適うものなのかなどの問いに応えていくこと。

これを通じて、より大きな関係性への自分の思いを明らかにしていくことが、真の全体観に向けたプロセスとなり、経験の中から気づき、試し、見出していくことが不可欠である。

組織のダイナミックスプロセスであり、その形成過程のマネジメント、そのプロセスを捉える必要がある。

メンバーはいろいろな経験をし、リーダーは経験から学び、豊かな知を創造していく、そこにさらに人々が集まり、物語は現実になっていく、そのような生きたダイナミックな組織的知識創造の力こそが中核となる。

以下に、各章の概要及び個人的に印象に残った部分をご紹介しますが、詳細は本書の一読をお薦めします。

第1章 事業創生モデルの提言

- 知を価値に変える -

一橋大学名誉教授の野中郁二郎氏、フライッシュマン・ヒラード・ジャパンSVP・パートナーの徳岡晃一郎氏

事業創生モデル」の枠組みを提示し、世の中をより良くする経営モデルの追求が必要であるとまとめられています。

「事業創生モデル」は、「存在次元」「事業次元」「収益次元」「社会次元」の4層からなり、起動させるためには、「価値命題の刷新」「関係性の刷新」「実践知プロセスの高速回転」の3つがカギとなる。

  • ・担うリーダーの中核能力は、実践知あるいは賢慮。
  • ・卓越を求める情熱と使命感、難局に立ち向かう政治力と実行力を身に着けた人材を、社内外から選抜することが不可欠である。
第2章 ビジネスモデル・イノベーション競争

- ビジネスモデルの多様な展開事例 -

早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏、富士通総研経済研究所の上席主任研究員の浜屋敏氏

先行理論を含めてビジネスモデルを定義し、『ビジネスモデル・ジェネレーション』のキャンパスを用いて、ビジネスモデルの構成要素、新潮流として8パターンに整理されています。

知識ベース企業のビジネスモデルには、事業次元内で「価値命題」「顧客基盤」「組織基盤」が相互に連携し、中心の価値命題(価値命題が作られるプロセスや「場」、主体である賢慮型リーダー)が核心である。

ビジネスモデル・イノベーションは新しい価値命題を創造することであり、「モノからコトへの転換」「デザインによる付加価値」「社会的価値の共創」などが視点となる。

第3章 日産のグローバル・ビジネスモデル・イノベーション

日産自動車社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏と野中教授との対談

電気自動車への進出、数々の危機への克服、リーダーの育成など、日産自動車におけるビジネスモデル・イノベーションの考え方が明らかにされています。

トップはビジョンと戦略を提示し、ボトムアップで具体的な実行計画を提案する。両者が正しいやり方で統合されることが必要である。

危機に直面した時の対応ステップ
アクセス(状況評価)、プラン(短期と収束後)、エンパワー(決定権の現場委譲)、トップの覚悟とコミットメント、ラーン(学ぶ)

第4章 政府レベルのビジネスモデル・イノベーション

- 知識創造型国家をめざすシンガポール政府の挑戦 -

富士通総研経済研究所の上席研究員の大屋智浩氏

「シンガポールの国家レベルのビジネスモデル・イノベーション」のケーススタディから、ビジネスモデル・イノベーションが国家政策やインフラ再構築と大きく関係しているとし、迅速な政策立案と実現する行政の仕組みを提言されています。

知識創造型経済への転換」を価値命題に掲げ、政府の仕組みを変革させる。

政府が主導してイノベーションを創出していくためには、現実を厳しく直視し、幅広く他者から学び、具体的な政策形成をなすことが重要である。

第5章 社会インフラ事業モデルの構造と戦略展開

- ナレッジエンジニアリングの視点 -

社会インフラ研究センター代表取締役の旭岡叡峻氏

社会インフラの再構築を視野に入れたビジネスモデル・イノベーションの考え方と事例紹介、社会インフラ事業の構築プロセスや仕組みが提言されています。

知識国家への構造転換を図るために、官民一体となった世界の知を総合した「知の再編成と創出」が本質となる。

第6章 ビジネスモデルとデザイン思考

- ビジネスモデル・イノベーションの実践知 -

知識イノベーション研究所(KIRO)代表、多摩大学大学院教授の紺野登氏

ビジネスモデル再構築のための手法として、知識経営デザインの視点から「ビジネスモデル・デザイン」に関し、『ビジネスモデル・ジェネレーション』のキャンパスを用いて概念から実践に向けた取り組み手法と事例が提示されています。

ビジネスモデル・デザインのステップ
準備・調査(チームビルディング、シナリオ策定)、実際のデザイン(ワークショップ、プロトタイピング)、評価・モニタリング

第7章 ビジネスモデル・イノベーションを阻む「しがらみ」からの脱却

- ハードルを越える実践アプローチ -

日本型プライベートエクイティファンドの大手であるポラリス・キャピタル・グループ代表取締役社長の木村雄治氏

現場におけるビジネスモデル・イノベーションの課題である「しがらみ」について整理し、どの様にして乗り越えるかを例示しながら解説されています。

「しがらみ」は、関係性自体が不採算で、その関係性がなければ現状事業が成立しなくなるリスクがあり、過去から継続していて半ば社内定常化している、という特徴がある。

それに陥らないためには、「自社の企業ビジョンと価値命題を明確にして、強い信念で推進する勇気を持つ」ことが必要である。

「維持・存続」ではなく、「変革・再定義」し続けること。

第8章 事業創生モデルを推進するイノベーターシップ

- 知を価値に変える新たなリーダーシップ -

そして再び徳岡氏

それまでの章で論じたビジネスモデル・イノベーションを実際に牽引するリーダーの資質として、「イノベーターシップ」というコンセプトを提示して、ビジネスモデル・イノベーターの育成方法やその実例が紹介されています。

イノベーターシップ」とは、事業創生モデルを牽引し、社会を変えるために知を創造し価値に変換していくコアになる活動であり、
その条件は「共通善を希求する高い志とビジネス嗅覚」「アグレッシブな吸収力と自己変革力」「グローバルな情報網とコミュニケーション力」「現実を変える熱い思いとやり抜く組織的実行力」である。

終章 賢慮のビジネスモデル・イノベーションに向けて

- 統合型事業創生モデル -

最後に野中教授と徳岡氏

事業創生モデルの今後の方向性としての「統合型事業創生モデル」を提示し、産業を再創造する水平モデルの重要性を言及されています。

統合型事業創生モデル」は、人類が乗り越えなければならない地球規模へ挑戦するための知の集結である。

『はじめに』からの引用

元来、日本企業には豊かな暗黙知に基づく完璧をめざして職人道を追求し、現場発の現場による現場のためのイノベーションを起こす伝統があった。

(略)

しかし、このような伝統は残念ながら、モノづくりの世界では生き続けたものの、利益至上主義の潮流の中で次第に居場所を失ってきてしまった。

(略)

そこには当然のことながら、日本の反省も必要だ。
すなわち、暗黙知をベースにして創造される高質な知を単にモノづくりに終わらせることなく、新たなやり方で価値に変える経営モデルに衣替えをしないといけない。
すなわち、それが本書の主題であるビジネスモデル・イノベーション(BMI)だ。
そして、その新しい日本的BMIの手法を世界に発信すべきなのである。

本書では、イノベーションの概念として、「プロダクトイノベーション」「プロセスイノベーション」、そして「ビジネスモデル・イノベーション」があるとしています。

これまでのプロダクトやプロセスに対し、ビジネスモデルという土俵での勝負が現在では必要であり、その土俵をひっくり返されるケースが多々起こっています。

ビジネスモデルの変革は、「一度成功しすればそれでよい」という一回性のものではなく、次々と起こる現実の中で都度意思決定し対応していく中での「実践知」の積み重ねが重要となります。

「株主価値最大化」に加え「社会価値最大化」を志向する企業モデル、モノ作りからコト作りへの転換、地球規模での共通善の追求、それらを牽引するリーダーのあり方など、多くの気づきを得ることができた一冊でした。

参考

2章と6章で活用されている『ビジネスモデル・ジェネレーション』のキャンパスを詳細に解説した書籍(当サイトでもご紹介した書籍)

2012.3.22 ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

ビジネスモデル・イノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論
野中 郁次郎、徳岡 晃一郎(編著)
根来 龍之、浜屋 敏、カルロス・ゴーン、大屋 智浩、旭岡 叡峻、紺野 登、木村 雄治(著)
出版社:東洋経済新報社(2012/8/14)
Amazon.co.jp:ビジネスモデル・イノベーション

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