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製造業が日本を滅ぼす 貿易赤字時代を生き抜く経済学
野口 悠紀雄(著)
出版社: ダイヤモンド社(2012/4/6)
Amazon.co.jp:製造業が日本を滅ぼす
円安・輸出頼みを捨て、新たな成長モデルを確立せよ
・円高こそが日本経済に利益をもたらす
・新興国と価格競争してはならない
・TPPは中国との関係を悪化させる
・「人材開国」と「金持ちモデル」を目指せ
本書は、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授でもある野口 悠紀雄氏が、今回も膨大なデータ分析と独自の視点から「貿易赤字時代を生き抜く処方箋」を示しています。
先日から、電機と自動車の2011年度の通期決算が発表されていますが、
・電機では、NEC、富士通、東芝、三菱電機、シャープの全企業で、前年度に対して
減収減益となり、NECとシャープは最終赤字となっています。
・自動車においても、トヨタが減収減益で最終利益は前年度比30.5%減の2,835億円、
ホンダも減収減益で最終利益が同60.4%減の2,114億円となりました。
・各社の発表では、主な要因は東日本大震災やタイ洪水、さらに円高の影響よるもの
としていますが、
・著者は、自動車や電機など製造業の輸出が落ち込んだのは構造的なものであり、
日本を支えてきた「輸出主導の成長モデル」が崩れていると指摘しています。
これから製造業は復活できるのか、円高は是正されるのか。
日本の貿易構造や為替の先行き、人材開国、高度サービス業の育成、さらにTPP参加や欧州ソブリン危機の影響など、今後の日本経済について考える上で新たな気づきを得た一冊でした。
カバー折り返しからの引用
製造業の収縮と海外移転は今後さらに進む。
これによる国内雇用の喪失に対応する必要がある。
これは、日本経済の基本的な構造を変えることによってしか対応できない問題だ。
産業構造の基本を変え、新しい産業を育成することが焦眉の急になった。
日本の製造業は国際競争上大きく変わり、「日本の輸出立国は大震災で終わった」との認識に基づいています。
すでに中国をはじめとする新興国の工業化により、製造業における日本の優越的地位の継続はできなくなっている。
2011年の貿易収支が赤字になり回復しないのは、構造的な要因であり、加工貿易型が破綻したものによる。
①アメリカの消費ブームの終焉による自動車輸出の減少
②円高
③電力抑制
④生産拠点の海外移転
日本も90年代以降のアメリカ同様に、生産性の高いサービス業(金融、IT関連サービス、コンサルティング)へ転換すべきである。
電機業界の例では、
- ・サムスンは、量的に、しかもウォン安に支えられて拡大しているだけで、テレビ事業は赤字である。
- ・これは、円安期の日本企業と同じ構造であり、日本型垂直統合モデルを維持しても巨大EMSの低価格生産には太刀打ちできない。
- ・「日本のモノづくりが強い」というよりも日本が強いのは垂直統合であり、これは閉鎖性、古い技術の特性であり、系列モデルの脱却が必要である。
基本的なビジネスモデルの再編が必要であり、円高期における製品輸入志向型へ転換すべきである。
また、電力需要が大きい製造業(09年の販売電力量合計8,585億kwの25%)が海外に移転することで、電力不足にも対応できると言及しています。
製造業が海外に移転することは雇用の減少を引き起こすという懸念もありますが、海外移転は90年代後半から生じておりあり、円安による輸出主導型成長のさなかでも起こっていたと分析しています。
今後、日本が発展するためには、
- ・製造業の雇用減少を賃金が低い産業が引き受けていたこれまでの状況から脱却し、
- ・正面から国内産業構造を変革すべきと提案しています。
特に重要なのは、「財からサービスへの転換」「既存のものの過保護に陥らない」
さらにTPPへの参加、欧州ソブリンリスクの影響についても解説しています。
TPPもFTAも、日本経済に悪影響をもたらすものであり、時代遅れの制度である。
- ・TPPは中国を排除する「仲良しクラブ」。日本は入ることの危険性を考えるべき。
日本の将来にとって最も重要な相手国は、中国にならざるを得ない。
- ・中国は、TPPに参加する理由はない。
参加しなくても対米輸出は伸び続けるし、ISD条約の問題もある。
- ・日本が目指すべきは、海洋国家である。
あらゆる面で日本を世界に向かって開く。(例えばイギリスのように)
欧州ソブリンリスクは日本国債には波及しないが、日本国債のリスクは高まっている。
ギリシャ、アイルランド、イタリアは性質が異なり、区別して議論すべきである。
- ・日本は、アイルランドの復活を学ぶべきである。
不良債権処理のスピード、果敢な緊縮財政、先端産業の存在
- ・米国国債運用の長期化、直接投資へのシフトなど、対外資産の運用利回りを効率化すべきである。
- ・日本国債のリスクは確実に高まっている。
クレジットデフォルトスワップ(CDS)の上昇
日本の実質金利はアメリカより高く、国債リスク上昇を反映して格差が拡大
市場に存在する国債償還までの平均期間「デュレーション」の短期化
本書は、ダイヤモンド・オンラインに連載された「未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか」と週刊ダイヤモンドに連載された「『超』整理日記」を元に編集されていますので、両紙を読まれた方は既知の内容かもしれません。
日本が直面する様々な課題と対応策を著者なりの視点で言及されており、それらを参考にして、「今後の日本の発展について」自ら総合的に考える上で大いに参考になりました。
参考
DIAMOND online
・現在連載中:経済大転換論
当サイト
2012.5.5 三菱電機とシャープの2011年度通期決算と2012年度予想
2012.5.3 富士通とNECの2011年度(平成23年度)通期決算と2012年度予想
製造業が日本を滅ぼす 貿易赤字時代を生き抜く経済学
野口 悠紀雄(著)
出版社: ダイヤモンド社(2012/4/6)
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