Ⅶ.国際起業論で語られる世界で起きつつある潮流

Ⅶ.国際起業論で語られる世界で起きつつある潮流

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Ⅶ.国際起業論で語られる世界で起きつつある潮流

アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか

  • ・起業家やベンチャーキャピタリストが一定地域に集中する傾向はあるものの、「超国家コミュニティ」の発展により国際化してきている。
  • ・「超国家コミュニティ」は、一方的な「頭脳の流出(Brain Drain)」ではなく、「頭脳の循環(Brain Circulation)」が起こっている。
  • ・コミュニティにアクセスできる企業は国際化しやすく、ベンチャーキャピタルの海外投資も促進される可能性がある。
  • ・日本においては、シリコンバレーなどの海外のアントレプレナーシップ拠点との間にはコミュニティはできあがっていないようであるが、海外に飛び出す特に若い起業家は増えてきている。
1.起業家やベンチャーキャピタリストが一定地域に集中している理由

理由1:地理的に集中している方が、経営資源が得やすい。

(1)「人に根付いた」深い情報やインフォーマルな情報を求めて、一定の地域に集中する。

(2)アメリカ半導体業界の申請特許と引用特許との関係を研究
ブルース・コグート教授とポール・アルメイダ教授(1999年)

  • ①知識は人に根付いたものである。
  • ②知識を持つ人が一つの地域内にとどまれる環境があれば、知はそこに集積されていく。

(3)オラブ・ソレンソン教授(2003年)
起業家がある地域に集中するのは、そこに集まる情報や人的ネットワークを得るためである。

(4)リチャード・フロリダ教授(2002年)
起業家を含む「タレント」は、自分の専門分野の最先端の情報を得るために、たとえ生活コストが高くても一定の地域に集積する。

理由2:ベンチャーキャピタリストは、地理的に近いスタートアップに投資しがちである。

(1)地理的に近い方が、スタートアップ経営者に経営アドバイスを頻繁にすることができる。

(2)ポール・ゴンパース教授とジョシュ・ラーナー教授(2002年)
アメリカでは、スタートアップ企業とリーディング・インベスターとして投資するベンチャーキャピタル企業との平均距離は約94㎞にすぎない。

2.起業家が国際化するという矛盾

ローカル化とグローバル化が同時に起きている。

(1)超国家コミュニティ(Transnational Community)

  • ①深い知識や情報が、国境を頻繁に往復する人々で形成されたコミュニティを通じて飛ぶようになってきた。
  • ②アメリカで教育を受けて起業家を経験した人が、母国に帰国したり、母国との間を頻繁に往復することで、国と国をまたいだインフォーマルなコミュニティが形成されつつある。

(2)シリコンバレーと台湾に形成された起業家ネットワークを研究
アナリー・サクセニアン教授(2008年、2009年)

「超国家コミュニティ」は、一方的な「頭脳の流出」ではなく、「頭脳の循環」が起こっている。

(3)国境を越えたエンジニアの移動と知識移転との関係を分析
アレクサンダー・オエトゥル教授(2008年)

  • ①一方方向の技術者の移動が、結果的に両国の双方向の知識移転効果をもたらしている。
  • ②例
    アメリカの企業→他国の企業へ移籍:移転される知識が3%増加
    他国の企業→アメリカの企業へ移転:移転される知識が4%増加

(4)輸出戦略への影響を分析
イゴール・フィラトチェフ教授(2009年)
中国経営者が欧米などへの留学や就業経験があるほど、輸出志向は強く、輸出ビジネスで満足のいく結果を出している。

(5)ベンチャーキャピタル投資の国際化を促している可能性を分析
入山章栄教授(著者)とラヴィ・マドハヴァン教授(2009年)
アメリカとの間で移民ネットワーク関係が強い国ほど、アメリカからベンチャーキャピタル投資が行われる傾向にある。

参考

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    ≫ Ⅶ.国際起業論で語られる世界で起きつつある潮流

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