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国内の電機8社の2015年度(2016年3月期、2015年4月~2016年3月)決算と2016年度の通期予想が出そろいましたので、概要を整理します。
中国景気の減速や下期からの円高基調の影響に加え、構造改革の進み具合により差はあるものの、売上高は日立製作所と三菱電機の2社が前年度に対して増収、営業利益ベースではソニーとパナソニックの2社が増益したのみにとどまっています。
特に、財務体質強化の途中にある東芝、鴻海精密工業グループとの戦略的提携を発表したシャープの2社は、営業赤字となっています。
電機とITの決算 ≫ 国内電機の2015年度(平成27年度)決算まとめ
2015年度通期(2016年3月期、2015年4月~2016年3月)の各社の決算概況は、以下の通りです。
NEC、富士通
ICT関連事業が中心のNECと富士通ともに、前年度に対し減収減益となっています。
詳細(当サイト):2015年度通期決算と2016年度通期予想:NEC、富士通
NEC
国内の流通及び製造業向けの売上高は伸長したものの、官公庁向けと通信事業者向けが減収し、全体としては減収減益となっています。
富士通
売上高は、ネットワークプロダクトやPC事業が減収になったものの、システムインテグレーションが伸長し、全体としては微減となっています。
利益面では、ビジネスモデル変革費用415億円の計上に加え、欧州拠点で米国ドル建の部材調達コストの上昇により減益となっています。
日立製作所、東芝、三菱電機
日立製作所と三菱電機は前年度に対し増収減益、財務体質強化途中の東芝は大幅の減収減益(営業損益と最終損益の赤字は過去最大)となっています。
なお日立製作所は、伊鉄道会社買収によるかさ上げや円安効果もあり、7期ぶりに10兆円の大台に乗っています。
日立製作所
社会・産業システム、情報・通信システム、高機能材料、売上高が初めて1兆円を達成したオートモーティブシステム、金融サービスの5部門が増収となったものの、建設機械部門が新興国の景気低迷の影響、生活・エコシステム、その他(物流・サービス他)が減収となっています。
また、前年度を上回る事業構造改革関連費用を計上した建設機械部門を中心に、4部門で減益となっています。
なお、当年度は「2015中期経営計画」の最終年度でしたが、2012年度には調整後営業利益率が4.7%だったのに対し2015年度は6.3%(目標は7%超)となり、収益性が着実に高まり、改革の手応えを感じているとしています。
課題は、情報・通信システムや社会・産業システムでマーケット変化への対応が遅れたこととし、ビジネスユニット(BU)制をもとにした新たな組織体制で経営のスピードアップを図るとしています。
2016年度見通しは、日立物流および日立キャピタルの持分法適用会社化の影響をすでに織り込んでいることに加え、事業構造改革関連費用として800億円を計上しています。
東芝
円安の押し上げがあったものの、事業規模を縮小したパソコンとテレビを含むライフスタイル、ハードディスの需要減や売価ダウンが影響した電子デバイスの減収などが影響して、全体では減収となっています。
構造改革費用1,105億円の他、Westinghouse含む原子力における2,600億円の減損をはじめとした資産評価減で3,251億円、不採算案件の引き当てなどで2,368億円などが影響して、全体では大幅の減益となっています。
自己資本比率は5.8%となり、脆弱な株主資産の状況は喫緊の課題として、まずは自助努力を進めることにより、総資産の圧縮、利益を創出することで早期に2桁台達成を目指すとしています。
2016年度は財務体質の強化、収益性の改善施策を進める方針で、2016年度末の自己資本比率8%を計画しています。
2016年度の見通しは、家電事業の中国美的集団への売却を織り込んでおり、再編を検討しているPC事業に関しては、現時点では契約に至っていないため継続事業として計上しています。
三菱電機
北米や欧州での新車販売好調や自動車機器の売上伸重、電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム及び家庭電器の部門での増収などにより、全体では増収となっています。
一方、販売管理費の増加、中国景気の減速でスマートフォン業界向けファクトリーオートメーション(FA)機器などが減速したことに加え、電力システムの採算悪化も響き、営業及び最終損益ともに減益となっています。
2016年度の見通しは、環境・エネルギー関連事業及び社会インフラシステム関連事業のグローバル展開を従来以上に推進するとともに、各事業における収益性改善・強化、全社横断的な経営改善施策に継続的に取り組むことにより、業績及び財務体質の改善を図るとしています。
なお、自動車機器における重要顧客である三菱自動車の燃費データ不正問題影響については、業績予想には織り込んでいないとしています。
また、遅くとも2020年度までに、売上高5兆円以上、営業利益率8%以上の達成に向けて、「バランス経営」の3つの視点(「成長性」「収益性・効率性」「健
全性」)に基づく持続的成長を追求する上で、「強い事業をより強く」「新たな強い事業の創出」「強い事業を核としたソリューション事業の強化」にそれぞれ取り組むとしています。
ソニー、パナソニック、シャープ
ソニーとパナソニックは前年度に対し減収増益、鴻海精密工業グループとの戦略的提携を発表したシャープは大幅の減収減益となっています。
特にソニーは、前年度に対し営業利益は4.2倍、税引前利益は7.6倍と大幅に増益し、2012年以来3年ぶりに最終黒字を達成しています。
但し、2012年度は2,800億円の一時利益の計上による黒字化であったため、実質的には8年ぶりの黒字化であり、その中でもエレクトロニクス事業が黒字化したのは5年ぶりとなっています。
一方シャープは、今回赤字に転落した2部門を加えた3部門が営業赤字となっています。
ソニー
過去最速の普及ペースの「プレイステーション 4」のソフトウェアが大幅な増収となったゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野、米ドルに対する円安の影響などがあった音楽分野は増収となったものの、モバイル・コミュニケーション(MC)分野ではスマートフォンの販売台数が大幅に減少したことが影響して、全体では減収となっています。
スマートフォン向けイメージセンサーなどが主力のデバイス分野が成長戦略の柱が崩れかけて赤字に転落したことに加え、金融分野、映画分野が減益となっています。
しかし、当初の目標以上の構造改革を達成したモバイル・コミュニケーション(MC)分野に加え、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野、イメージング・プロダクツ&ソリューション分野、音楽分野、ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)分野での大幅な改善により、全体では増益となっています。
特にホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)分野に含まれるテレビ事業は、前年度1,460万台から1,220万台に減少したものの、高付加価値モデルへのシフトと、販売会社までを含めたオペレーション力の向上により、258億円の営業黒字となっています。
またスマートフォンに関しては、昨年後半からの成長率鈍化の読み違いを反省し、流通と顧客の在庫を把握して2016年度黒字化を目指すとしています。
なお、2016年度の業績予想は今回は見送り、5月24日発表予定としています。
4月14日以降に発生した熊本地震の影響により、デジタルカメラや監視カメラ向けのイメージセンサ、ディスプレイデバイスなどを手掛けるソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本テクノロジーセンター(熊本テック)での生産が停止しており、今後補強工事などを実施していく計画で、生産停止により多額の機会損失が生じる可能性があることが要因です。
パナソニック
売上高は、テレビなどの販売絞り込み、ソーラーやICT関連デバイスの落ち込みなどの影響により、全体では減収となっています。
しかし、売上が伸びない中、白物家電やバーティカルソリューション事業の貢献、構造改革などによる固定費の削減や材料合理化の取り組み、事業構成の良化などにより、全体では増益となっています。
アプライアンス部門は、白物家電が増収したものの、テレビ事業の販売絞り込みが影響して減収していますが、白物家電のプレミアム戦略効果とテレビ事業の黒字化が貢献して増益となっています。
ソーラーの落ち込みが大きく影響したエコソリューションズ部門は減収減益、モビリティ事業とコミュニケーション事業における販売不振があったもののバーティカルソリューション事業が牽引したAVCネットワークス部門は増収増益、車載および産業向けの販売が伸長したものの事業の縮小や撤退やICT関連の電池・デバイスが落ち込んだオートモーティブ&インダストリアルシステムズ部門は減収減益となっています。
2016年度は、将来の成長に向けて足場固めの年と位置づけて、意思を込めた固定費の増加として、車載や住宅などの高成長事業への先行投資を積極的に実施するとしています。
業績見通しで減益としているのは、将来に向けた先行投資を積極的に実行することに伴う固定費の増加に加え、事業構造改革費用175億円を想定しています。
2016年3月31日発表の事業計画では、事業部を立地や競争力に応じて「高成長事業」「安定成長事業」「収益改善事業」の3つに分類してメリハリのある事業戦略を実行するとしています。
その中でも、「収益改善事業」の対象は14事業部があり、その内の半分が含まれるAVCネットワークス関連事業では、今後の事業環境の変化も想定しながら、追加的施策も並行して検討していくとしています。
シャープ
コンシューマ・エレクトロニクスやディスプレイデバイスの業績悪化が影響し、全体では減益となっています。
なお、多額の営業損失、当期純損失を計上した結果、単体及び連結ともに債務超過となりました。
営業赤字となったセグメントは、エネルギーソリューションに加え、今回赤字に転落したコンシューマーエレクトロニクスとディスプレイデバイスの2部門を加えて3部門となっています。
コンシューマーエレクトロニクスは、国内4Kテレビやヘルシオが好調であったものの、欧州と米州のテレビ事業のブランドビジネス移行や中国における液晶テレビや白物家電の売上減少が影響して減収、欧州撤退や販売対策費用の増加により営業赤字となっています。
1,291億円の営業赤字となったディスプレイデバイスは、テレビ用大型液晶や中国用スマートフォン向け中小型液晶の販売減少に加え、大手スマートフォン顧客向けが第4四半期に落ち込んだことによる売上減、工場の稼働調整などが発生したことが影響しています。
今後は、PCやタブレット、車載などの中小型液晶領域での安定的な事業拡大、フリーフォームやIGZOなどの高機能化、さらに鴻海との協力による顧客基盤の拡大などで収益改善を目指すとしています。
その他、エネルギーソリューションは国内住宅及び産業用の減少の影響で大幅に減収(営業赤字)となりましたが、好調を維持して増収増益のビジネスソリューションは市場拡大が見込まれるロボティクス事業などの新規事業を強化、スマートフォン向けや車載向けのカメラモジュールが好調の電子デバイスはカメラモジュールのほか、カラー監視カメラ、新規センサーによる付加価値領域拡大を目指すとしています。
なお、2016年度の業績予想については、鴻海精密工業グループとの戦略的提携に伴うシナジー効果などが具体的に算定困難として今回は見送り、出資完了後、速やかに公表するとしています。
また鴻海精密工業グループとの戦略的提携については、堺工場への本社移転や海外拠点集約、IoT、健康・環境事業の拡大を狙ったCEカンパニーの再編、人事制度の改革などを目指し、戦略的提携は株主総会による承認取得後、6月30日までに完了予定としています。
2015年度(2016年3月期)決算と2016年度の通期予想
電機各社の決算発表
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