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2018年3月に米国調査機関のNavigant Researchが、自動運転技術開発の格付け(2018年1Q版)を発表しています。
自動運転システムを開発している19社に対して、自動運転技術の開発と展開における相対的な強みと弱点を客観的に評価し、ランク付けをしています。
出典
Navigant Research、2018年3月
Navigant Research Leaderboard: Automated Driving Vehicles
Navigant Researchが公表している自動運転技術開発の格付けは、縦軸に「Execution(実行性)」と横軸に「Strategy(戦略性)」を取り、市場投入戦略、パートナー生産戦略、技術、販売、マーケティング、流通、製品能力、製品の品質と信頼性、製品ポートフォリオなど、独自の10基準で評価しています。
その結果、自動運転開発で先頭集団である「LEADER(リーダー)」、リーダーを追う2番手集団「CONTENDER(競争相手)」、後を追う「CHALLENGER(挑戦者)」に分類しています。
以下では、Navigant Researchのコメントに加え、各社の最近の主な動向について整理します。
LEADER(リーダー)
「LEADER(リーダー)」には、GMとWaymo(Googleを傘下に持つ持株会社Alphabetの自動運転開発子会社)などが位置付けられています。
GMは、自動運転車関連の有力ベンチャー企業を買収するなど、積極的な取り組みを経て、2019年には無人の自動運転車を導入するとしています。
- ・2016年3月、自動運転車関連の技術を開発するクルーズオートメーション(Cruise Automation)を10億ドル以上で買収合意したと発表しています。
- ・2017年10月、LiDARシステムを開発するStrobeを買収したと発表しています。
- ・2017年10月、2018年初めに米ニューヨーク州でレベル4の自動運転をテストすると発表しています。
- ・2017年10月、米カリフォルニア州で登録された自動運転車の数が100台を超えたと発表しています。
- ・2018年3月、米国ミシガン州の2工場に総額1億ドル(約106億円)を投資し、2019年から自動運転車の生産を開始すると発表しています。
2019年から生産する自動運転車「クルーズAV」は、量産化に向けて準備が整った初めての自動運転車(ステアリングホイール、アクセル、ブレーキペダル、手動操作用のスイッチ類も装備されていない)
Waymoは、2017年度の調査では2番手集団「CONTENDER(競争相手)」に位置付けられていましたが、実験車両の台数拡大などが評価されて、今回「LEADER(リーダー)」に上がりました。
- ・2018年2月時点での公道での実走行距離は800万㎞
- ・米カリフォルニア州の交通当局(DMV、Department of Motor Vehicles)によると、公道試験56.6万㎞の間に自動運転が解除され人間が介入する「ディスエンゲージメント」は63回(単純計算では、9,000㎞を人間の介入なしで自動走行)
参考:GMは2,000㎞、日産は300㎞、Uberは21㎞
- ・2018年3月、自動運転大型トラックの試験をジョージア州アトランタで開始しました。
- ・2018年4月、カリフォルニア州での完全無人運転の車両を公道で試験する許可を申請しています。
Daimler-Bosch
- ・2017年4月、完全自動運転車(レベル4相当)とドライバーレス車(レベル5相当)の開発において、開発業務提携契約を締結したと発表しています。
- ・2017年7月、ボッシュ、メルセデスベンツと提携し自動バレーパーキングのデモを実施。2018年のサービス提供を目指すと発表しています。
Ford
- ・2017年2月、自動運転向け人工知能(AI)の開発を手掛けるベンチャーの米Argo AI社に、今後5年間で10億ドルを出資すると発表しています。
- ・2017年8月、Domino’s Pizzaと提携し自動運転車でのピザ宅配を実施し、顧客の反応等を調査すると発表しています。
- ・2021年に、レベル4の完全自動運転車を市場投入することを目指しているとしています。
Volkswagen (VW) Group
- ・Audiが、2017年秋に世界初となるレベル3の機能(但し時速60km以下の高速道路上の交通渋滞時対応のみ)を搭載した新型「A8」を発売すると発表しています。
- ・2017年6月より米ニューヨーク州にてレベル3の走行テストを実施中です。
- ・2018年3月、コンセプトカーの「I.D. VIZZION」に、レベル5の完全自動運転を可能にするNVIDIAの「NVIDIA DRIVE IX」を採用したと発表しています。
BMW-Intel-FCA
- ・完全自動運転車の開発促進に向け、米Intel社、イスラエルMobileye社、米Delphi Automotive社、独Continental社、米FCA社と提携しました。
- ・2021年までに、複数の完全自動運転車が連携して稼働するシステムの実現を目指すとしています。
CONTENDER(競争相手)
2番手集団「CONTENDER(競争相手)」には、トヨタやVolvo及びJaguarの他、Baidu(百度)や現代グループが位置付けられています。
Volvo
- ・自動運転技術は新しいドライビングの始まりとして、技術の開発により世界経済を加速させ、時間管理の概念が根底から変わり、道路交通をより安全にするために貢献するとして取り組んでいます。
- ・2013年、2017年末までに100台の自動運転車をスウェーデン第二の都市ヨーテボリで走らせ、スウェーデン政府と共に交通や経済における効果を検証すると発表しています。
- ・2017年5月、スウェーデンの都市にて自動運転車によるゴミ収集の実証実験を実施しました。
- ・しかし、2017年12月、自動運転車の実証実験計画「Drive Meプロジェクト」が足踏み状態となっており、技術がまだ万全でないことを認めて4年先送りすると発表しています。
- ・その結果、2021年までに発売する同社初のレベル4の自動運転車をさらに進化されることができるとしています。
Jaguar
- ・2018年3月、同社初の完全電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「Iペース」にWaymoの自動運転システムを搭載することを発表しています。
年内に始まるWaymoの走行試験に向けてIペース納入を開始する計画で、2020年からIペース最大2万台がWaymoのタクシー配車サービスに加わる見通しとしています。
- ・2018年5月、英国における自動運転車両の導入促進のために発足したコンソーシアム、「AutopleX」に参画したことを発表しています。
- ・自動運転技術の開発に、470万ポンド(約7億円)を追加投資すると発表しています。
曲がり角の先の状況や障害物の向こう側など、死角を「感知」する自動運転車両の開発プロジェクトを進めていくとしています。
トヨタ
- ・自動運転コンセプト「Mobility Teammate Concept」を発表し、自動車専用道路の入口から出口までを自動走行することが可能な「HighwayTeammate」(レベル2~3相当)を2020年頃に実用化することを発表しています。
- ・2018年3月、Uberが人身事故を起こしたことを受けて公道実験を停止していますので、次回の評価には影響があるかもしれません。
Baidu(百度)
- ・2017年7月、自動運転の開発連合「アポロ計画」を始動したと発表しています。
米フォード・モーター、独ダイムラー、米NVIDIAや米インテルなど自動車やITの大手企業約50社が参画し、2020年までの完全自動走行を目指した取り組みです。
- ・2018年3月、中国で発行された自動運転テスト用の臨時ナンバープレートT3を5枚取得(臨時ナンバープレート:T1~T5まで)し、北京で自動運転車の公道テストを開始しました。
認識機能や交通法の遵守、ルート厳守、緊急事態への対応など、総合的な性能を備えることをテスト用車両に要求するものです。
CHALLENGER(挑戦者)
ホンダ
- ・2020年に高速道路でレベル3に相当する自動運転技術を実用化その後、利用できる範囲を一般道に拡大するとしています。
- ・2025年を目途に、レベル4自動運転を技術的に確立するとしています。
- ・2018年4月、Waymoとの提携が最終合意に近付いているようです。
2016年12月に自動運転技術に関する共同研究を開始し、Waymoの自動運転用センサーやソフトウェア、車載コンピューターなどを搭載して米国で公道実証実験を行なってきています。
Uber
- ・2017年8月、カナダ・トロント大学周辺で自動運転車のテスト走行を実施しました。
- ・2018年3月、人身事故を起こしたことを受けて公道実験を停止しています。
Tesla
- ・2017年7月、モデル3(既に発売済のレベル2対応の廉価版)の販売を開始しました。
- ・自動運転機能を利用するためのハードウェアが5,000ドルで購入可能で、今後バージョンアップにより完全自動運転に近づける公算があります。
現在は、2020年以降の自動運転技術の実用化を目指して、各社が競っている状況です。
その過程では、自動車メーカや部品・車載半導体企業、そこに自動運転を担うAI半導体、さらにITサービス企業が入り混じっての提携と競争が繰り返されると予想しています。
自動車業界では、自動運転技術の他に、コネクテッドカー、センサーやレーダー、WiFiと次世代高速通信「5G」のネットワーク、さらには電気自動車(EV)関連と、この数年での対応が迫られています。
今後も様々な決断をすることになる自動車関連企業ですが、各社の動向に注目していきたいと思います。
トヨタの2017年度通期決算概要(2018年5月9日発表)
2018年5月9日、トヨタが2017年度通期決算と2018年度予想を発表しました。
2017年度通期の連結決算では、純利益は2兆4,939億円と日本企業として過去最高額を更新(2018年度は、円高の影響で2兆1,200億円の見通し)したものの、「ライバル企業も競争のルールも変わり、生死をかけた闘い」と、事業環境の厳しさを改めて強調しています。
- ・売上高:29兆3,795億円(対前期比1兆7,823億円(6.5%)増)
- ・営業利益:2兆3,998億円(同4,054億円(20.3%)増)
- ・当期純利益:2兆4,939億円(同6,628億円(36.2%)増)
内、自動車事業
- ・売上高:26兆3,979億円(対前期比1兆3,160億円(5.2%)増)
- ・営業利益:2兆111億円(同3,181億円(18.8%)増)
また、トヨタの研究開発費は以下の通りですが、Googleを傘下に持つAlphabetは166億ドル(110円/ドル=1兆8,260億円)規模で、過去10年で8倍に急増しているようです。
全てが自動車関連ではないでしょうが、大規模かつ急速に技術開発を進める「異業種」に対して、どのように対抗していくのかが課題となりそうです。
研究開発費(売上高比率)
- ・トヨタ 2017年度:1兆642億円(3.6%)、2018年度:1兆800億円(3.7%)
参考
- ・NEC 2017年度:1,081億円(3.8%)、2018年度:1,140億円(4.0%)
- ・富士通 2017年度:1,586億円(3.9%)、2018年度:1,400億円(3.6%)
参考
Navigant Research、2018年3月
Navigant Research Leaderboard: Automated Driving Vehicles
トップ 10
1.GM
2.Waymo
3.Daimler-Bosch
4.Ford
5.Volkswagen Group
6.BMW-Intel-FCA
7.Aptiv
8.Renault-Nissan Alliance
9.Volvo-Autoliv-Ericsson-Zenuity
10.PSA
「Execution(実行性)」「Strategy(戦略性)」
Leaders
1 GM
2 Waymo
3 Daimler-Bosch
4 Ford
5 Volkswagen (VW) Group
6 BMW-Intel-FCA
7 Aptiv
8 Renault-Nissan Alliance
Contenders
1 Volvo-Autoliv-Ericsson-Zenuity
2 PSA
3 Jaguar Land Rover
4 Toyota
5 Navya
6 Baidu-BAIC
7 Hyundai Motor Group
Challengers
1 Honda
2 Uber
3 Apple
4 Tesla
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